「木密地の住宅改修」@市村宏文

東京の住宅事情として近年一番の問題となっているのは木造密集地域です。平成24年4月東京都より発表のあった「首都直下地震等による東京の被害想定」の火災延焼による区市町村別建物被害の中で、地震の種類によりますが建物焼失率が26%、30%と飛び抜けて高い地区があります。以前より木密地域が問題となっている、大田・品川の両区です(この被害想定は3部構成で400ページに及ぶ詳細な報告書になっており、東京都のHPより入手できます)。
その地域の住宅の相談を受け設計する事になり、2年掛かりで改修が終わりましたので、そこで起きた事柄や工夫をお話しいたします。

家の履歴を知る

今回の住宅もそうですが、古い建物では申請書の副本や設計図等は殆ど残っていません。関係各所で調べると、昭和31年に建築確認申請が出され、翌32年に増築申請が出されていた事が分かりましたが、それは、申請の事実と当時の規模と面積が確認できただけで、建物の図面等はありませんでした。
そうなると現況の調査が重要になります。建物の両側が隣の家と接した状況で、裏側の万年塀は外壁とわずかの隙間で造成されていました。土地関係の書類の中に当時の測量図が残っていたので、再測量をして建物同士が越境していない事を確認しました。建物の増改築については施主から話を聞く事になるのですが、当時の写真を見ながら家族の成長や、たくさんの思い出話を聞かせて頂きました。         

法規との兼ね合い

今回改修の大きな理由としては耐震と防火への不安からでしたので、改修も現行法規に合わせた耐震補強、防火対策(準耐火仕様)での計画です。まずは、既存の補強方法の検討です。残す軸組はオリジナル部分のみとして、後年付け足しで増築された部分は全て撤去しました(その部分の床の傾きや雨漏れが起きていました)。また、隣家と接していた下屋なども撤去して、今まで人も通れなかった両側に半間ほどの隙間を確保する事ができました。裏の萬年塀はどうしようも無いです。
構造上一番重要な基礎部分ですが、築年代から無筋のコンクリート基礎と判断して補強方法を検討していましたが、実際は大谷石にモルタル仕上げで造られていたため、急遽撤去して鉄筋コンクリート基礎に造り替えました。参考資料等でしか知らなかった大谷石の基礎、初めて実物を見ました。構造躯体の耐震補強、防火対策は現行基準にできましたが、生活環境の改善も必要でした。

住み続けるための工夫

周りを建物で囲われていて、特に南側はRC4階が建っており日中の日差しは殆ど期待できず、特に1階は全く陽が入ってきません。そして当然の事ですが、床下の防湿、壁・屋根の断熱はありませんでしたので、冬寒く、夏は蒸し暑い状態です。改修で建物を気密・断熱化し、パネルヒーターで建物全体の冷暖房計画をする事により、内部環境を大きく改善しました。
生活スタイルも変え、1階にあった居間・台所を2階に移し、家族が集まる場所として、広い空間のリビング・ダイニングへとしています。建物に囲まれていて窓からの明るさが期待できないため、トップライトからの採光を主としました。このトップライトは、太陽光が安定している北面屋根の2階リビングに二間巾で5つ取り付け、反射光を利用して天井全体を明るく照らして、1階へもその光を下ろす工夫をしています。
家の中に居て天気の様子、時間の流れを感じることができ、また日中は電気を付ける必要がなく、施主奥様にはとても好評です。この改修の費用は新築に近いものとなりましたが、これからも地域の中で住み続けるために何ができるのか、しなければいけないのか、多くの可能性を確認する事ができたと思います。