薪ストーブライフをリアルに楽しむための工夫 @滝川淳+標由理

4年ほど前から山梨と東京の2拠点生活をしています。山梨での生活では、冬の暖房を主に薪ストーブで生活しています。チェンソーで玉切し、斧で薪割。寒くなったらストーブに薪を放り込んで火を付ければ、家じゅう暖かい。本物の火は落ち着いてよいものです。と書くのは簡単ですが、実際にやってみるといろいろ大変なことも。

 

今日は私が設計する家に、薪ストーブを導入する時に、リアルな体験からおススメしている工夫について書いてみます。なお、本文中にある写真の家は、自分の失敗をもとに設計した薪ストーブのある家の事例です。

 

・他の暖房設備を必ず用意しておく

エアコンや床暖房などの暖房設備だけでも部屋が暖かくなるようにしておきましょう。薪を部屋に運ぶだけでもひと苦労。年をとっておじいさんになった時、骨折してしばらく動けなくなった時など、体の自由が利かない時のために、薪ストーブは補助の暖房として考えることが大事です。

私も今のところ斧で薪割りをしていますが、いつまで続けられるのかな、70過ぎたらさすがに難しいかなと考えています。

 

・天井の高い部屋に置く場合はシーリングファン必須

リビングやダイニングなど人の集まるところに設置する薪ストーブ。素材が鉄板や鋳鉄でできているので、近くに居れば輻射熱で十分暖かいですが、温められた空気は真上に上がります。そして天井が高い場合はどうしても熱が上部にこもります。そこでおすすめなのがシーリングファン。羽根の長い商品を選べば、ゆっくりした空気の対流が起きるので、あまり風を感じることなく上下の温度ムラがなくなります。

私の家では吹抜けのあるリビングにストーブを設置していますが、残念なことにシーリングファンがありません。直進性のある扇風機を1階と2階に置いて、対流させてみたこともありますが、気流が早くて不快なことと、音がうるさいため長続きしませんでした。たまたま1日の居住時間が長いのが2階なので何とかなっています。。。

・薪の調達方法を事前に考えておく

エネルギー源となる乾燥した木材をどう入手しますか。お金に余裕のある方は定期的に宅配してくれるサービスを利用することをおススメします。薪づくりに関してのわずらわしさから解放される、一番の調達方法かもしれません。

自分で薪づくりをしてみたい、という方。敷地内で原木から薪を作ろうとすると、少なくとも2年分の薪棚を用意しておきましょう。ただしこの「2年分」というのがどのくらいのボリュームになるのか、ご家庭それぞれで違います。家の断熱性能、1日の稼働時間、寒く感じる温度、などは設計段階でも正直分かりません。無駄に多くの薪棚を作っても、薪づくりが大変だったからという理由で宅配に切り替える可能性があるので、増設できる場所だけ確保して、基本型を1つ2つお造りすることが多いです。

私の住む山梨では、モモの木をいただけます。モモは収穫できる樹木になってから10~15年で伐採伐根するので、ご近所数件にお声かけしているだけで、毎年十分な量を頂戴しています。知り合いには薪に適しているといわれるクヌギやナラをトラックで原木購入している方もいます。地域によって入手しやすい方法があると思います。Facebookなどのグループを検索して、事前に調達方法を調べておくのも1案です。

 

・敷地内の薪動線は短い方がよい

薪棚から薪ストーブまでの距離。他にも原木を車から降ろす場所から玉切りする場所までの距離や、玉切り場から牧割り場までの距離、薪割り場から薪棚までの距離など、1mでも1歩でも短ければ短い方が楽です。薪は乾燥していてもとにかく重いもの。寒い時期には相当量の薪を、外の薪置き場からストーブの近くに運び込まなければなりません。元気なうちは薪ストーブをメインの暖房器具として活用したいのであれば、薪動線をしっかり検討した家づくりがとても大事になります。

我が家で失敗したのは、車から原木を下ろす場所から薪棚までが15mほどあること。家を挟んで駐車スペースと庭が分かれてしまっていて、薪棚付近の庭には車が横付けできないので、原木を一輪車でせっせと運んでいます。運動にはなっていますので、健康には良いかな。

・薪づくりは安全第一。無理は禁物。

原木から薪づくりをして、敷地内に設けた薪棚で乾燥させようとすると、何かしら道具や機械が必要になります。チェンソーや薪割機といった文明の利器は一歩間違うと大けがにつながるリスクが隣り合わせです。機器のメンテナンスを心掛けることはもちろんのこと、安全装備にも予算を見込んで薪づくりを始めましょう。

山梨では山に立ち入って立ち木伐採をすることなく原木を入手できます。チェンソーの使い方などを動画サイトで勉強していると、林業の方が山や勾配地で伐採されている動画を拝見します。倒れる方向が完全にコントロールできるわけではなく、悲しい事故も多いと聞きます。我が家の庭にある木の枝を落とす場合でも直径10センチくらいになると、脚立が倒れないか、近くに家人がいないか注意して切るくらいです。

チェンソー作業を始めた4年前は、目立て(=チェンソーの刃を研ぐこと)がうまくできなくて、刃を頻繁に交換していました。切れない刃物を使うことの方が危険だと思ったからです。道具のメンテナンスが苦手な方は薪づくりには向いていないかもしれません。

 

・コストを考えて導入するのはやまめしょう

ここまでお読みいただいた方は既にお分かりと思いますが、薪ストーブライフはコストを考えて導入するものではありません。炎を眺めること、薪を作ること、ピザや焼き芋をつくることなどが好きな方にお使いいただくものだと考えます。円安・原油高で電気代が高騰したからといってペイできるほど甘いものではないことは確かです。

ただ、一度生活のリズムに組み込んでしまえば、楽しみプラスαの恩恵が帰ってくることも確実です。私の場合は二地域居住で知り合いも少ないなか、地域の方とじかにコミュニケーションできる貴重なツールになっていますし、何より薪づくりで身体を動かすことが健康につながっています。

 

薪ストーブライフをご検討の方の参考になれば、何よりです。

著者情報

滝川 淳 + 標 由理滝川 淳 + 標 由理

滝川 淳 + 標 由理 たきかわ あつし

コネクト 一級建築士事務所

「つなぐ、つながる」家族(人)の活動する風景をデザインします。 現在の環境は自由ですか?私たちは親世帯、子供世帯、パートナー、仕事、趣味、隣人に対する不自由な思いから、まだ見ぬあなたの自由の思いを形にします。「つなぐ、つながる」(CONNECT)をコンセプトに長く愛され、次の世代に引き継がれる環境を提供いたします。

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