マンションの水廻りリフォームで採用したホーロー浴槽 @古川達也

静かな高台にあり、眺望に恵まれた横浜のマンションリフォームでした。

リビングの窓からは、程よい緑景と横浜らしい景色が存分に楽しめる住環境です。駅前の利便や昇り降りの少ない平地に移り住む選択肢もあったが、かけがえのない住まいとして、どうしても手放せない。しかし一方で施主ご主人は、風呂・洗面・トイレ水廻りに長年残念な感覚を抱えておられました。マンションゆえに、どの世帯も標準で用意されたユニットバス・洗面・トイレが、豊かなリビングから移動すると、常に暗く窮屈で味気なく感じてしまうという問題です。

水廻りが開放的でワクワクするような空間になったら嬉しい。水廻り空間の魅力を高めることで、もっと我が家が好きになれる。そういうとてもシンプルで明確なテーマをもってリフォーム計画がスタートしました。ホーロー浴槽は、その目指すところに最も相応しいアイテムとして選択。既存のユニットバスを撤去し、ホーロー浴槽を採用した際に考えたことや注意点、実現して良かったことなど、少しご紹介します。


リビングの窓からは、程よい緑景と横浜らしい景色が存分に楽しめる住環境。

 

ホーロー浴槽とは。
1500℃で溶かした金属(鉄)を鋳型に流し込み作られる鋳物の表面にガラス質の粉(釉薬)を高温で焼き付けたものが、「鋳物ホーロー」です。 鋳物の強靱さと、ホーローのなめらかさ、輝きがひとつになった浴槽が、ホーロー浴槽です。(大和重工ホームページ解説参照)

ホーロー浴槽は、なぜリゾートホテルで採用されるのか。
居室と連続する開放的な水廻りとして、各々仕切られていた壁を撤去し、風呂・洗面・トイレを一つの空間とした上で、さらに居室・廊下との境を大きな引戸で仕切り、開け放つことが出来るように考えました。このとき最も課題となったことの一つが、浴槽そのものの清潔感でした。いつまでも湿り気が残る、汚れが落ちにくい、あるいは汚れて見える佇まいであっては、折角の解放感も満喫できないものとなってしまうからです。ホーロー浴槽の艶やかな清潔感や、簡単に汚れを拭き取れるメンテナンス性の高さは、リゾートホテル等の浴室における採用が大変多いことにも関係していると分かりました。

ホーロー浴槽の清潔感。
まずホーロー素材そのものがとても固い。表面を10円玉でこすると10円玉が削れるほどであると言われています。とても固いので傷がつきにくい。傷つかないので汚れない。また、滑らかでつるつるしているから、水あかや細菌が付着しにくい。例えば油性ペンでいたずら描きしても水拭きで簡単に落とせるほどです。従って上品な光沢が失われず、いつまでも清潔なイメージを保つことが出来るはずです。居室と連続する開放的な水廻りを実現させる構想において、ホーロー浴槽のもつ清潔感が、とても頼りになりました。

とにかくホーロー浴槽に触れてみる。
実物に触れることで、その違いが分かるはず。施主ご主人と共に、採用することになったホーロー浴槽を製作・販売する大和重工オフィス・ショールームに伺い、特徴を詳しくご説明頂きながら実物に直接触れる機会をつくりました。これは大変おススメです。設計者である私と施主ご主人は、交代で浴槽内そのものにも入ってみました。この時の感触で、体験したことのない気持ち良い触り心地と、身体に合う浴槽のプロポーションとして確かなものを感じ、最終的に施主ご主人はホーロー浴槽の採用を決断されました。



大和重工オフィス・ショールームにて、担当:河部さんにご案内頂きました。

 

ホーロー浴槽採用のまとめ。

◆ホーロー浴槽のメリット
・硬い。(傷が付きにくい、10円玉でこすると10円玉が削れる)
・汚れにくい。(水あか・細菌等付着しにくい。油性ペンも水拭きで簡単に落ちる)
・滑らかなさわり心地。(FRP製の5倍、アクリル製の1.5倍)
・鋳鉄の熱伝導で、お湯が入る部分だけでなく本体全体が温まる。(例えば首が温かい)
・環境に優しい。基材はリサイクルに優れる「鉄」、ホーローは「珪石(ガラス)」で天然素材
ホーロー浴槽本体の約90%はリサイクル可能とのこと。

◆ホーロー浴槽のデメリット
・重い?
対応→ 現場施工時、早め入荷で施工途中のまわりを傷めないよう配慮して搬入して頂いた。
・金額が高い?
考慮→ 同形状・大きさの浴槽の中では高めとされるが、余りある品質を考慮し選定しました。
・鉄なので錆びる?
認識→ ホーロー表面には出ないが裏面は錆びる。鋳物の特徴として錆は進行しにくいとのこと。
・熱伸びがある?
認識→ 20℃から50℃にした時の変化はホーロー:0.65㎜に対し、人造大理石:1.34㎜、
FRP:1.44㎜。鋳物は変化が少ない方であると聞いています。
浴槽本体周りは、動きを考慮した目地材としています。

 


before 廊下に面する扉を開けると水廻り。


after 引戸を開けると居室・廊下と繋がる水廻りへ。

 


before 正面:ユニットバス、左:洗面器、右:トイレ


after リフォーム後の水廻り。居室に繋がる開放的な水廻りになりました。別々に仕切られた風呂・洗面・トイレの壁をなくし、ワンルームの開放的な構成とした。重要視された上品で清潔感のある浴槽の選択として、採用したホーロー浴槽(大和重工)が奥に美しく佇む風情です。

 


FRP防水が施された浴室部分(中山建設 撮影)
最後に大事な点について少しだけお話し。マンション・リフォームでは、その管理組合の管理する建物に関するマンション規約の確認が必須です。防音対策や設備更新などルールを確認してはじめて着手することが可能となります。一方、マンションにおいて、そもそもなぜユニットバスを設けるケースが多いのか。それは防水対策の問題が大きいと考えられます。ユニットバス本体そのものが桶のようにくるまれるつくりなので、水漏れのリスクが小さいのです。今回のリフォームではホーロー浴槽及び周りのタイル仕上げの下地として、浴室にあたる部分全ての床壁に切れ目なくFRP(強化プラスチック)防水を施しています。仕上げ表面から水が浸入したとしても、最も水下にあたる浴槽の下部一点に水が集まり、排出されるよう工夫しています。本件を実現するためのディテールやノウハウなど、気になること、知りたいことなどございましたら、是非気軽に古川都市建築計画一級建築士事務所までお問合せ下さい。

古川達也
古川都市建築計画一級建築士事務所

 

著者情報

古川 達也古川 達也

古川 達也 ふるかわ たつや

古川都市建築計画

住まいが安心で心地いい。そして住まいに感動がある。 そういう家づくりのお手伝いをしたいと思っています。

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