住まいの玄関先で気軽な行き来を促す「立ち寄りベンチ」 @古川達也
きっかけは、2014年に発生した大きな地震で被害を受け、半壊判定となった一戸建て住宅を全改築する再生リフォームの計画を進めている時でした。住まい本体の安心安全を第一に、構造補強や破損した場所の修復、折角の機会なので住み易い間取りに替える部分等を中心に計画が進行。施主ご家族と共に再び快適に住めそうだと思い始めていたある日のことです。ご高齢の施主ご夫妻が偶然話して下さったことが気付きに繋がります。「地震があった時、いつも仲よくしている近所の方がかけつけ声を掛けて下さり、とても心強かった。玄関先でいつも立ち話をしていて互いの様子が何となく分かっていると思う。離れた場所の仮住まいでご近所の行き来がないから今は少し寂しい、だからリフォーム工事完成が本当に楽しみ」というお話です。
地震の被害にあった当初、建物本体そのものの再生が最も大事な課題でした。一方で、ご近所との行き来を考えた時に、特に住まいと町のあいだ。道と玄関のあいだ。つまり玄関先の在り方が住まいを手離したくない、土地を離れたくない、大切な理由の一つであることに気付いたのです。リフォーム後に戻ることを楽しみにしている本宅と、リフォーム計画のあいだ一時的に住んでいた仮住まいとの、決定的な住環境の違いは、玄関先の在り方であるということに、施主ご家族と改めて一緒に気付き、仮住まいの期間で実感することになったと言えます。
もともと門扉はありませんでしたが、敷地外周を明確に塀で囲んでいた住まい。地震の際に玄関先付近の塀に破損がみられたのですが、思い切ってこの機会に、修復せず撤去してしまおうということになります。車や人通りの多い道路側の塀はプライバシーが守れるよう残し、私道に面する玄関先の塀を敷地の境界が少しだけほどけるように撤去。塀の基礎だけ残した上に木板をのせてベンチとしました。ベンチと住まい本体の間はバリアフリースロープ。植物が大好きなご夫妻のお手製花壇を配置。ご家族だけでなく道行く人が気軽に座れる「立ち寄りベンチ」が生まれ、玄関先の立ち話ならぬ座り話が可能になりました。
「立ち寄りベンチ」は、楽しい住まいの顔となり、日々進化しています。以前は塀で囲まれた庭の一部だった樹木が、塀の撤去で解放されベンチに心地良い日影をつくります。真夏のある日、ご近所の子供が普通に座っていました(笑)。ご夫妻が楽しまれている花壇の花は「咲きましたね」「今年は暖かいですね」など会話のきっかけになっているとのこと。ご近所の方とベンチでお茶を飲むこともあるようです。日常の気軽な行き来を促す「立ち寄りベンチ」は、住まいを程よく開放し町との繋がりを生み出します。以前からあったご近所の方々との交流ですが、普段からの自然なコミュニケーションは、災害や健康を害し困った時など気軽に声を掛け合い、助け合える町づくりに繋がっていくのではないかと考えています。
リフォーム後の様子。私道に面する玄関付近の塀を撤去し「立ち寄りベンチ」を設置。
リフォーム前(震災前)の様子。塀によってかなり町に閉じた印象の住まいでした。
※住まい全体のご紹介はこちらです→ 震災復興再生リフォーム住宅【永く楽しむ家】
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