傾斜地の住宅のメリット・デメリット3 @石井正博+近藤民子
今週の“リレーブログ”を担当しています、設計事務所アーキプレイスの石井正博+近藤民子です。
今回の“リレーブログ”では、「傾斜地の住宅のメリット・デメリット」と題して、傾斜地(段差地・高低差のある敷地)を購入するときのポイント、傾斜地に住宅を建てる場合の注意点、傾斜地の工事費を抑える工夫などについて、事例を交えながら3回に分けて書いています。
傾斜地 Cace.4 『大きなテラスの小さな賃貸住宅』
敷地全体に0.8mのゆるやかな傾斜のある土地に建てた木造2階建の賃貸住宅。
敷地の高い側に入り口、低い側にメインの部屋とテラスを設け、住戸内の床レベルを変えて天井の高さにメリハリをつけた計画。鉄筋コンクリートの基礎は、敷地の高い方に合わせた高基礎になっています。
>>大きなテラスの小さな賃貸住宅
>>設計・工事過程はこちら
傾斜地 Cace.5 『ドッグランのあるペンション』(近藤が独立前の事務所で担当した事例)
敷地全体で3.5mの傾斜のある土地に建てた、木造平屋建てのペットと泊まれるドッグランのあるペンション。
敷地傾斜に添わせた床レベルを設定し、各客室に面した中庭から直接外に出やすくし、廊下も土地傾斜に応じたスロープ状となっている。
敷地傾斜に添わせて床レベルを設定したことにより、建物用途の魅力を高めるとともに、土地の造成の最小化や基礎工事の削減につなげ、建築工事費を抑えている。
■傾斜地のまとめ
<眺望が良い>
<採光や通風も良い>
<変化のあるプラン・空間を生みやすい>
<平坦地よりも価格が安い>
というメリットがある。反面、
1)インフラが揃っていない可能性がある
2)土地の安全性の確認に時間と手間がかかる場合がある
3)工事費は平坦地に比べて高くなる
4)メンテナンスが大変なこともある
5)道路付けが悪いとコストアップにつながりやすい
6)山林の場合は伐採・伐根費用がかかる
7)傾斜した土地が道路より高い場合、道路斜線は厳しくなる
8)擁壁の築造年代が古く劣化している場合がある
というデメリットもあります。
■傾斜地や敷地に関して知っておくべき法規制など
<がけ条例/崖条例>
がけ条例よって建物を建てる場所が制限される可能性があります。
東京都の場合は、東京都建築安全条例 第6条のがけについての規定がそれにあたります。【下図:大田区資料参照】
・高さが2mを超えるがけや既存の擁壁に近接する土地で、その下端からその高さの2倍以内の範囲に建物を建築する場合には、擁壁の新設、既設擁壁の改修を必要とする。
・擁壁がある場合は、その安全性を証明しなければならない。(工作物確認申請書の有無・検査済証の有無・劣化状況の確認)
・証明できないときは、高さの2倍の距離を離して建物を建てる、防護壁を建てるなどの措置が必要。
などです。
一つのポイントは高さが2mを超えるか否かですが、注意しなければいけないことは、たとえ擁壁が自分の敷地に無い(自分の所有では無い)場合でも、安全性の証明を求められるということです。擁壁を新設したり造りかえるには、百万単位の費用がかかります。擁壁やがけ改修工事費の助成をしている自治体もありますが、隣地にある場合は、必要な資料が揃わなかったり、造りかえたくてもできない可能性もあることは、頭に入れておかなければいけない重要ポイントです。
また、高さが2mを超えていない場合では、工作物の申請が必要でないため、逆にちゃんとした根拠に元づかず経験的に作られた擁壁が多いため、いざ安全性を証明しようにも資料がないという状況に陥ります。
結局、「擁壁に荷重ががかからないように建てるしか方法がない」という、悲しい状況になることが多く、この点は不動産業界、建築業界、国、自治体などで統一基準を作るなど改善してほしいと願っています。
>>東京都のがけ条例(安全条例第6条)https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000205179.pdf
>>神奈川県のがけ条例 http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/898802.pdf
>>埼玉県のがけ条例 https://www.herbal-home.net/pdf/saitama.pdf
>>千葉県のがけ条例 https://www.pref.chiba.lg.jp/kenchiku/zyourei-kaisetu/documents/zyourei32-5.pdf
他に確認したいサイトとして
>>国交省が運営する「ハザードマップポータルサイト」
>>市区町村が作成する詳細な「わが町ハザードマップ」
があります。
<安息角>
安息角とは、土が崩れないで安定を保つことのできる斜面の角度(安定角度)のことです。【下図参照】
安息角は土質によって変わりますが、一般的には30度程度とされています。
土地の安全性を証明したり、基礎の深さを決めたりするときに根拠となる大切な数値になるため、各自治体の規定を知ることが必要になります。
<急傾斜地崩壊危険区域>
その土地が急傾斜地崩壊危険区域に入っていないかどうかの確認が必要です。
急傾斜地崩壊危険区域では、建物の建設、土地の掘削・盛り土、立竹木の伐採などが制限され、建物を建てることができない場合があるので、各自治体に問い合わせる必要があります。
今回のリレーブログでは3回に分けて、傾斜地の住宅のメリット・デメリット、崖地や擁壁などの規制について書いてきました。
傾斜地や崖や擁壁のある土地を購入する場合、そこに建物を新築したり建て替える場合は、専門的な知識が必要になり、検討には想像以上の時間と手間がかかります。建築家31会には、傾斜地や崖地での建築の知識や経験をもった建築家がいて、親身になって相談にのってくれます。傾斜地や崖地での建築計画や土地購入を検討されている方は、必ず事前にご相談していただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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