実例から 太田窪の家~なぜ すのこ 床~ @菰田真志+菰田晶
今週のリレーブログを担当させていただきます菰田建築設計事務所の菰田真志(こもだまさし)です。
我々が設計した家が「なぜこうなったのか」「どんな効果・目的があったのか」という事を、実例を通して説明しようと思います。第一回は「太田窪の家」です。
太田窪の家のなかで特徴的なのは、まずは間取りの真ん中を貫く土間と真上の二階の床がすのこ状になっている部分です。
土間東側を見る
土間の両側は大開口になっていて、上下には換気窓がついています。螺旋階段が窓の前にありますが、これはできるだけ光を遮らない階段という考えで設計した螺旋階段です。段板を支える力板を無くしてできるだけ透け感のあるものにしました。この家では明確な玄関がないため、螺旋階段の一段目を大きくし、その下にラグを置くことで靴脱のラインを(建主さんが)設定しています。右側の床部分は将来の子供部屋スペースで、2つに分けられるように電気や窓の位置などを設定してあります。天井の部分がインナーバルコニー/スノコ床。
土間は自転車を家の中に保管する場所になり、メンテナンスの作業場であり玄関でありという多目的な場所になっています。この場所は写真をみた皆さんにとても好評です。この家(写真)を見てその後設計依頼を頂いたお客様が何人もいらっしゃいます。
その土間から上を見上げると・・・天井はなく二階の床がすのこ状の床(インナーバルコニーと呼んでいます)になっています。この部分は正直な話賛否両論です。見上げれば下から見えるし、上からものも落とせば落ちるし、そもそも怖いという方もいらっしゃいます。そうおっしゃることは理解できます。でもあえて建主さんの同意を得てやりました。
子供スペースから土間を見る。
階段部分以外の天井=二階の床=インナーバルコニー/スノコ床になっています。ほぼ全体が吹抜のように抜けています。人が歩くのはまったく問題ありません。透明材料で塞いでいるわけではないので風も物も通り抜けます。
螺旋階段部分見上げ
窓の前の螺旋階段の越しに東側の光が入ってきます。窓前の条件は良いのですがやはり隣地なのではじめからずりガラスを使って見えないようにしています。なので目隠しのためのブラインドなどは不要です。
それには理由があります。その理由を説明します。
この建物は北道路の敷地に建っています。
北側から見る
車のスペースと玄関はほぼ北向きです。後ろ側の建物が見えますが後ろ側=南側になります。
あえて南に寄せて家を建てています。
西側から見た遠景
南側の隣地建物側に寄せて家を建て、南向きのハイサイドライトの位置を少し南側隣地から下げています。高い板貼の部分の左側(白い壁のライン)にハイサイドライトがあります。こうすることで南からの光を隣家越しに取り入れています。
南側の隣地はギリギリまで隣家が立ち並び、南側を庭としてもあまり環境が良くない敷地でした。たぶん冬はずっと日陰になる場所もあるとおもいます。
そのかわり、東西は環境がよく、東の隣地は離れて建っていてかつ最近建ったばかり。西側は駐車場と畑が続き、地主さんの意向でしばらく建物がたつ場所ではありませんでした。
そういった敷地の周辺環境と敷地内の駐車スペースの必要性などを考えた結果、あえて南側に建物を寄せて建て、東西からの光を取りいれる開口と土間を大胆に取ることにしました。
ただその場合に南からの光をどうしたかというと、二階の南側部分を少し隣地から下げてハイサイドライトをとり、その光を一階まで落とすことにしました。そのために考えたのがインナーバルコニー/すのこ状の床でした。
二階のインナーバルコニーを見る
インナーバルコニーに面してハイサイドライトがあり、光が入ってきます。窓に見える屋根は隣家の屋根です。部屋の中にいても和室がちょっとした離れのような雰囲気になるのも面白い雰囲気です。インナーバルコニーの透け感が判りますが、意外と下から見上げても真下でないと上が見えません。スノコ材の高さがあるので目線を意外と隠してくれます。
二階の洗面所からリビング方向を見る
下の階の寝室の入り口が見えます。
実際の効果としては、家の中心にある土間とインナーバルコニーを介して家中が繋がることで空気が循環し、時々刻々の光がいつもどこかから家のなかを照らしています。
ハイサイドライトから入る光
2015年3月14日(土)放送「渡辺篤史の建もの探訪」での一幕。冬場の午前中の日差しが入ってきているのが判ります。
一、二階の大きな空間がつながっていると冷暖房の効率の話をよく聞かれますが、一階と二階の窓(上下高さの有る位置の窓)をあけると、インナーバルコニーを通した重力換気で夏の暑い空気もすぐに入れ替わります。出かけていて帰ってきても一度家の中の空気を換気してから冷房をかけることで効率がぐんと上がります。
冬はこの家では一階の土間に灯油のストーブを置き、ファン(サーキュレーター)を回しながら使うことで灯油ストーブ1台で家全体を暖房しています。天気が良ければ窓からの光も入りますので昼間は暖房がいらないそうです。
土間に置かれた灯油ストーブ
2015年3月14日(土)放送「渡辺篤史の建もの探訪」での一幕。撮影日は前日に雪が降り晴れてはいましたが寒い日でした。そんな日でもこのストーブ一台で暮らしています。
吹抜をつくっても同じ効果は得られたと思いますが、床(通路)として使いながらかつ換気や採光の役に立つというのは、インナーバルコニー/すのこ状の床にしたことで機能的に役に立った部分です。
リビングからキッチン方向を見る
出来上がった写真をみると意匠的な部分の印象が強いですが、実は隣地の条件からの要求を満たすことで出てきたプラン/間取りになっています。
この家にも建主さんの希望があってこそ決まった部分もたくさんありますが、実はプラン/間取りを決める条件として敷地とその周囲の環境がどの様になっているのかが大きく作用した物件になっています。
そういった目で見ていただけると、ちょっと印象が変わるかもしれません。
TV朝日 「渡辺篤史の建もの探訪」 - 快適!土間とスノコ床の家 -
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/10
(有)菰田建築設計事務所
HP: http://www.archi-komo.co.jp
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