怖い!境界塀のトラブル@小林 武

土地には法的な制限、道路との関係、インフラ(電気、水道、ガス等)整備状況、近隣状況、地勢、地歴、ハザードマップなどなど、確認すべき内容が多くあります。完璧に調査していても思わぬトラブルが生じるケースもあります。その中で今回は私が経験したトラブルを境界塀に絞っていくつか紹介したいと思います。

【境界塀のトラブル-1】

敷地を囲う塀も建築確認申請の審査対象です。既存の塀を残す場合はブロック種別、控え壁、配筋、根入れなど適切か設計者が確認して適法か判断します。とある物件でブロック高さが5段(1m)の既存塀があり劣化状況も悪くなく、塀を残す前提で設計を進めていました。しかし、その後の調査で、その塀の反対側隣地との高低差が60cmあり、この塀は土留めも兼ねている事が判りました。土留めが出来るブロックは2段(40cm)までというのが一般的な取り扱いです。結局、既存塀を取り壊し、RC土留めにしましたが境界塀の工事は隣地に入らないと出来ない工事で承諾を得る事から始まり多額の費用も発生しました。

 

【境界塀のトラブル-2】

境界塀がどちらの所有物か不明のケースがありました。境界塀は自己の土地に存在している場合、隣地側に存在している場合なら分かり易いのですが、境界芯にある場合もあります。その際、ブロック控え壁がある側やフェンス向きにより所有を想像する事が出来ますが、今回のケースは隣地のご高齢の方が塀は自分の物で境界は塀の外側であると主張。境界杭は塀芯が境界を示していたのに、です。クライアントは隣家と揉めたくないとの事で購入した土地面積より塀分を除いて建築しましたが1坪数百万の土地が減少した事は大きなデメリットになりました。土地購入前に、塀について不動産業者を通して詳しく確認する事が大切です。

 

【境界塀のトラブル-3】

築20年ほどの木造一軒家を、まるごと仕上げ材を撤去し、耐震補強を施す設計をしました。この土地は北側隣地が約1.5m高くなっていてかなり古い隣家が建っていました。建物の外形や敷地の変更はありませんでしたが、解体が進んで調査した所、外から見て最低でも30cm立ち上がっているべき基礎が5cm程度しか立ち上がってない部分がありました。内側からは見ると立ち上がりは25cm確保されているので、どうやら北側隣家土留め塀から少しずつ土がこぼれて基礎が埋もれかけている状況です。隣地土留めは間知ブロックで出来ており劣化はあまり見受けられませんでしたが、施主と協議して隣地土留め崩壊の可能性を考慮して高さ1mのRC塀を考えました。しかし、その後も問題が発生。間知ブロック擁壁の土中基礎が越境している事が判り、新設するRC塀の位置が思ったより建物側に寄ってしまいました。隣地さんと施主は越境している事の覚書を交わしましたが、話し合う労力など大変苦労したケースです。

 

【境界塀のトラブル-4】

境界芯に境界塀がある計画地で、その塀の老朽化が進んでいたため既存塀を解体して新たに施主自身の費用で自分の敷地内にブロック3段+ブラック目隠しフェンス境界塀を造る事を隣地さんと協議し承諾を得る事が出来ました。解体後、隣地の整地等施す事など含め丁寧に説明しているとフェンスの色についてブラックは辞めてほしいと要望が発生。どうやら言えばなんでも聞いてくれると思ったらしいのです。施主はお隣さんと揉めたくないのでシルバーで良くなりましたが、既に注文書を交わしブラックで納品されていたので2重の費用が発生したケースです。

 

【境界塀のトラブル-5】

万年塀は建築基準法内では明確な基準は無く、JIS規格に準じているか、また劣化状況を目視して安全性を判断しています。万年塀はコンクリート既製品なので、ほぼJIS規格に準じて造られていると思われるが、塀自体が歪んでいたり、鉄筋が露出していたり、クラックが入っていたりすれば安全性が無いと判断します。隣地の承諾をもらえず万年塀をカットしたケースがあります。こちらもカット撤去費用が発生しました。

 

ここでは書かなかった事がまだあります。境界塀はお隣さんとのデリケートな問題です。建築時に土地境界確定測量が無ければ必ず行って戴きたい測量です。また、境界ギリギリに構築される囲障工事は隣地の承諾が不可欠ですので自分の土地なので法令を遵守していれば大丈夫という考えは少々危険です。困った時は専門家に相談しましょう。

著者情報

小林 武小林 武

小林 武 こばやし たけし

KOB建築設計事務所

たまには空を見上げませんか?たまには逆立ちしませんか? お気に入りの靴を履いて出掛ける時って少し気分がスゥーっとして気持良くなる事があります。 些細な事かもしれませんが,こんな[何と無く良いね]を常に考えて建築設計をしています。 この何と無く良いねと建物にかける費用は必ずしも比例しません。比例するとしたらその行為に関わる人たち(顧客・設計者・監理者・施工者)の発想や情熱また努力だと思います。 その中で私たちKOBは機能性・安全性・設計者の立場の独立性をまず第一に考え,それから一歩先にある心地よさや感動を求めて一つずつ丁寧に考えて皆様の期待に応えていきたいと思います。

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