建築家と旅1@松永 基
中国 福州市視察
歴史と伝統、そして未来
2017年11月、中国福州市に建築士会連合会の国際会議で訪れた。福州市は台湾海峡を挟んで大陸の玄関口だ。僕は帰途、台北に私用があったので台湾にも寄りたかった、ところが、中国と台湾の関係は民間では交流が盛んだが、まだまだ微妙である。福州―台北は日に一便フェリーがあるのだが、あまり一般的ではないようだ。今回はまずはずっと南の香港トランジットで、東京―香港―福州―香港―台北―東京と目的は福州市と台北、その距離200kmなのに、「ずいぶん南に行かないとならないのだなぁ・・」と思った。
福州に着くと、中心地の南の烏龍江という河の中州、ガラスカーテンウォールのモダンなホテルに逗留した。僕は出張先では毎朝ジョギングをする、翌朝このあたりを走ってみた。ところがこの中州は3kmくらいあるのだが、ほとんどが工事中で何もない。売店の一つもない、横浜のみなとみらいや幕張の開発途中はこんなだったのかな?と思いながら、翌朝も10㎞程度走ってみたが、人の気配は感じなかった。
最終日、市の中心街に行く機会を得た。市の中心街は活気があり、人も自転車も多くこれぞ中国といった雰囲気。三坊七巷という町の中心街にある一角は圧巻だった。
三坊七巷は七世紀唐の時代より発展した。中央のメインストリートに対して、左右に路地があり、その路地が坊と巷なのだ。路地から路地に木造、煉瓦造の建物が並び、明、清、民国時代の建物が作る街並みはまさに建物歴史博物館といった風情だ。福州市もこのエリアの観光に力を入れており2006年から、歴史文化地区としての保護修復プロジェクトがはじまり、古い建物や道路の修復が行われてきたそうだ。路地を電気自動車が通り、制服を着た美人のガイドさんが何人も行きかっている。
木造の家屋も保存状態、修復状態も良く、なんと200件以上も現存しているそうだ。
このエリアの住宅は裕福な商人か役人(官僚)が多かったらしく、門こそは狭いが奥に奥に長く、中庭で多くの棟が繋がっている。塀の中にこんなにも豊かな空間があるのに驚かされる。その多くは木造だ。太い柱、梁に木造の屋根を掛け、木造の回廊がある。
隣家との境、街区との境は煉瓦造の壁、これは火事の時の防火壁の役割があるのだろう。
多くの家は塀からの門を入るとホールのようなスペースがありそこに梁(丸太)が架かっている。その梁の位置で主の不在、出張などで変わるそうだ。ホールからは中庭になっていて、各家族の家が暮らしている。回廊には肘掛椅子が配置されている。無垢の木材で優雅な曲線が美しい。建具にも組子彫刻が施されている。これらの保存状態が非常に良いのには驚かされた。このような家が200件以上あると言う。日本は木造建築の国と思っていたが中国の奥深さを改めて感じた。
もう一つ嵩口(ソンコウ)と言う小さな山間の町を訪ねた。福州市の中心地より南西60㎞に位置し2本の川の合流点にあり、山と街の接点として古くから交通の拠点となり栄えた町だ、しかし、現在では人口も減少方向で復興途中にある。この町の面白いところは南宋王朝(12~13世紀)から変わらない街並みである。特に家族が集まって住む中国独自のスタイルの民家が多く残っている。城壁に囲まれた民家には8から10世帯が暮らしを共にしている。福建省の円形住宅 世界遺産の「福建の土楼」も同じ構成で、是非見たかったのだか、山奥で500km以上南西に進まないと到達できなかったので今回は諦めた。嵩口の建築の多くは木造でできていて、その境に煉瓦造の壁(防火壁)があり、その壁は平瓦で覆われ独自の雰囲気を作っている。この町も観光資源として開発できないか?現在その道筋を探っている。
嵩口の街並み
話を福州の中心に戻そう。福州市の港、空港のある沿岸地域から市の中心まで河沿いに80㎞位ある。東京から小田原位の距離だ。その80㎞、川沿いに遊歩道を作ろうとしている。前に述べた中州から中心地までの20㎞が完成していた。その遊歩道の長さも長いのだが、整備も行き届いている、緑が植えられ、公園や休憩場も作られ綺麗に清掃されている。
福州市は中国の経済開発区に指定され、都市計画が進んでいる。港からの道路などの整備、高速道路による移動、日常の自転車や歩行者までの移動を考えて都市計画をしているのだろう、さすが万里の長城を建設した国だ。80kmや100㎞の遊歩道などの建設はあり前なのだろう。
今現在も大きく発展していく中国。その一つの地方都市の福州市。市のインフォメーションセンターで福州市の今後の在り方の模型と映像を見た。そこには東シナ海のハブとなって無限に発展する姿が描かれていた。
ある若者に訪ねてみた。
「君は福州市の未来はこのような姿になると信じているの?」
若者は答えた。
「もちろん、福州市は世界の街にもひけをとらない街になる。」
素敵な答えだ。今、どれだけの日本の若者が胸を張って自分の住んでいる街の夢の発展を信じているだろうか?
僕は若者の若さを羨ましく思った。
福州市の街並みと遊歩道
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