意志の力@前田敦
工務店の設計を担当していらっしゃる方々向けのセミナーの講師を務めた時、このような質疑がありました。
「住宅を設計するといつも入母屋の屋根になってしまうのですが、どんな風に設計されるとそのような屋根のデザインができますか?」
私個人としては普通に考えて設計しているので、少し驚きました。
同じ設計を手掛けていても、設計に取り組む「意志の力」が異なると全く違うものができあがるんだな〜と思いました。
入母屋は屋根架構の部材が短くできることもあり、コストを切り詰めた際には効果的なデザイン手法でもありますが、
設計とは、コストの安いものだけを追求するものではないはずです。
経済効率を勘案することはもちろん重要はことですが、全てが経済優先で作り上げると、退屈で無味乾燥な建築や街が出来上がってしまいます。
私が設計を手がける際には、まず、建主様のご要望や敷地の持つポテンシャルを活かした提案をするように心がけています。
建主さんのご要望といっても、部屋いくつあって、オープンキッチンが希望、収納がいっぱいで、明るい家というリクエストが一般的です。
そのリクエストに沿って経済効率だけを追求すると、入母屋の建売住宅のような形になってしまうでしょう。
おそらく、建売住宅を購入するのではなく、建築家に設計を依頼してくださる建主様の求められていることはそういったものではないと考えています。
建築の素人である建主さんのリクエストを期待以上な提案が求められているのではないかと、建築家としての「意志の力」を提案するように心がけています。
いい意味で期待を裏切る
お客様のリスエストとは異なる提案を住宅の事例です。
リスエストでは2階建ての住宅を希望されていましたが、雑木林の中にある敷地を見たときに「こんな木漏れ日の下で暮らせると良いな〜」と感じました。
これは2階建てで樹木を眺めるのではなく、木漏れ日そのものを屋根にした平屋の空間を創造し、そこでの暮らしを提案するとリクエストに応えるだけではなく、きっと建主様も喜んでくださるはずだ!
という考えがまとまりました。
とはいえ、リクエストには2階建てとあるので、この提案は建築家としては勇気のいる決断です。
設計コンペでしたので、この提案が気に入ってもらえなければ、全てが水の泡となるのですから・・・
コンセプトが決まれば、あとはイメージを形にしていく作業ですが、既存の樹木を可能な限り伐採しないように計画を進めました。
木漏れ日がそそぐウッドデッキテラスで昼寝ができると気持ちいいかな?
あるいは開放的な浴室に木漏れ日が射し込むと露天風呂のようで心地よさそう!など
いろんな構想が湧きあがります。
そんな湧き上がるイメージを整理しながら、住宅という機能を持たせながら形にしていく作業はとても大切なプロセスです。
そして、それをコンペのプレゼンの期日までにまとめあげました。
いよいよ心地よい緊張感で望むプレゼンです!
もうここまでくれば、リクエストと違う提案だけど、きっと喜んでもらえるはず!という気持ちで望みました。
「この雑木林の樹木たちを上から眺めるより、下で木漏れ日を楽しんだ方が快適ではありませんか?」
と申し上げて、平屋で提案した模型をお見せしました。
その瞬間に即決!
「今、すごく感動しています!」というお客様の言葉に、私も驚きと喜びでいっぱいでした。
おそらく、建主様の言葉にできなかった声を聴くことができた。
あるいは、気付かれなかった土地の魅力を伝えることができた。
そして、それを形にする「意志の力」がなければ、建主様も設計者である私も感激することはなかったことでしょう。
ほぼ初めて敷地を訪れた時のイメージとおり、模型のイメージとおりの姿で完成しました。
樹木をイメージした柱・梁・垂木の架構
丸く欠きこまれた建築屋根は、木漏れ日屋根のための空間
丸く欠きこまれたウッドデッキは、既存の樹木を残すための工夫
お住まいになったあと、建主様より「いい意味で期待を裏切る提案に感動し心が震えました。」というコメントをいただくことができました。
本当に、この仕事をしていて良かったと思える言葉です。
その後、なんども弊社に設計を依頼されるお客様を案内しましたが、丁寧にこのようなお話をしてくださいます。
感動を与える建築づくりのために、「意志の力」を大切にした設計活動を進めていこうと思うことができた建築の話でした。
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