ウッドショックの最中での実施設計ケーススタディー 構造部材の選択肢が狭まった木材の供給状況における構造検討 @七島幸之+佐野友美

前回のリレーブログでは、現在進行中のウッドショックが木造住宅の構造設計に及ぼす影響についてお伝えしました。

敷地の可能性を最大限に引き出しその価値をより高める住宅の設計手法を示し、その実現の為の条件整理を行い、その条件として構造用木材の供給がいかに重要であるかを踏まえて、現在のウッドショック状況下における構造用木材の供給状況について(2021年8月時点での情報です)、具体的にお知らせしました。
また、構造部材の選択肢が狭まったウッドショック状況下では、以前と同様の設計手法では問題を解決できない場合もあり、今後は、その時々での木材の供給状況を視野に入れた、より緻密で精度の高い設計が求められる状況になってきたことを指摘しました。

敷地の可能性を最大限に引き出す、木造で自由な空間構成を実現するための設計手法と、現在進行中のウッドショックから受ける影響 @七島幸之+佐野友美

さて、このようなウッドショックの最中の8月、私共の事務所では、1軒の木造住宅の実施設計をまとめました。(前回のリレーブログでご報告した構造用木材の供給状況は、実はこの実施設計の構造設計の取りまとめのための情報収集として、止むに止まれず四方八方にヒアリングした結果でした。)

今回のブログでは、構造用木材の選択肢が狭まった状況で、どのように工夫して設計をまとめたか、ケーススタディとして、ご報告したいと思います。

photo by アトリエハコ建築設計事務所

今回の住宅の概要を以下に記します。

・場所:神奈川県川崎市
・敷地面積:約80坪
・用途地域:第一種低層住居専用地域
・地区制限:第1種高度地区、 宅地造成工事規制区域(盛土・切土H2.0m以上で該当)
・防火規制無し(法22条地域)
・許容建蔽率:40%、許容容積率:80%
・木造2階建て
・二世帯・5人家族の戸建住宅(建替の計画)

今回のプロジェクトは、神奈川県川崎市の戸建住宅の建て替えの計画で、元々は親世帯がお住まいであった住宅を、子世帯も一緒に住める二世帯住宅に建て替える計画です。
決して狭小敷地ではなく、むしろ比較的余裕のある面積の敷地でしたが、第一種低層住居専用地域であることから許容建蔽率が40%であり、これまで親世帯のみで生活されていたのと同条件の建築面積に二世帯で住むということもあり、ご家族とプランの打ち合わせを重ねる中で、ご家族は常に手狭感を訴えられていました。

今回の敷地は、防火規制上、法22条地域であり、角地でもないので建蔽率の緩和は望めません。
様々なプランをスタディするなかで、許容建蔽率40%以内の建築面積を守りながらご家族の求める開放性を獲得するために、出来るだけ天井高さを大きく確保することを設計の最重要方針としました。
また、プラン検討に際しては、前回のリレーブログでお伝えしたような「自由な平面・自由な断面」をイメージして、出来るだけ小割りの部屋割りをせずに、それぞれの生活の場がオープンに連続してつながっていくようなプランニングを心掛けました。

ご家族との打ち合わせを重ねた末に、基本的なプランの方針がまとまったのが2021年6月末でした。
実は、今回のプロジェクトでは、必要に応じて構造設計者と構造計画の方針を確認しながら進めてきたのですが、振り返ってみると昨年2020年に基本設計を開始して以来、プラン検討の過程で大体30案くらいのプランを検討しており、そうこうしている間にウッドショックが発生したという状況でした。

photo by アトリエハコ建築設計事務所

さて、2021年3月頃からウッドショックにより柱や梁・土台など構造材の供給の逼迫などが報道されていましたが、私共は、プランの方針がまとまった2021年6月末時点では、まだウッドショック下における具体的な木材の供給状況を把握できてはいません。

これまで比較的複雑な木造3階建て住宅を設計してきた経験を踏まえて、「アタリ」を付けながらプランを検討してきたつもりだったのですが、プランの方針がまとまって余裕が出来たところで腰を据えて各方面に具体的な木材の供給状況について情報収集をしたところ、かなり選択肢が狭まった構造部材の供給状況が判明したという次第でした。

前回のブログでご報告した現在の構造部材の供給状況のうち、特に今回の計画にとって致命的と思われたのは「柱・梁とも、3.5寸(105mm)幅のみ供給可能」という点でした。
先に述べた、ご家族の要望を満たす「高天井・オープンなプラン」というのは、実は、構造上の必要に応じて、従来は供給可能であった4寸(120mm)幅材の柱を用いることを前提としていたからです。

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まず最初に、「高天井」つまり高さ方向の寸法に関わる問題です。

建築基準法に定められた構造の基準に「柱の有効細長比」という基準があり、今回の住宅で天井高さを最大限確保したい1階部分においては、木柱の小径(幅・太さ)は柱の長さの1/30以上にしなければなりません。

当初主要な柱には4寸(120mm)角柱を用いることを想定していたため、改めて3.5寸(105mm)角柱になった場合に当初想定していた高さ関係が基準オーバーにならないかチェックしたところ、「柱の有効細長比」が1/30未満となってしまい、そのままでは基準を満たせないことが判明しました。

当初考えていた高さ方向の寸法は、天井高さ=2900mm、階高=3350mmで、ご家族が心配されている寒さ・暑さ対策として採用したアクアレイヤーの納まりを想定して決定した床仕上げ厚さ(土台〜FL=120mmという寸法)を踏まえると、柱の最も長くなる最小梁せい(120mm)部分の柱の長さは3300mmとなり、「柱の有効細長比」の基準を満たせません。

そこで、構造設計者とも改めてやりとりをして梁の架け方などの構成を見直し、柱の上に乗る梁の最小梁せいをサイズアップすることと、上記の床仕上げ厚さを再検討して小さく抑えることにより、合計で柱の長さを150mm縮めて、最長部分の柱長さを3.5寸(105mm)の30倍の長さ(=3150mm)以下に抑えることを試みました。

その結果、天井高さ=2900mm、階高=3350mmをキープしたまま、「柱の有効細長比」の基準を満たすことができました。

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次に、「オープンなプラン」つまり平面方向の寸法に関わる問題です。

柱というのは、当然ながらその上部の梁を介して上階の床などの荷重を支えていますが、出来るだけ開放的なプランを実現しようとして柱と柱の間の距離が大きくなってくると、必然的に柱一本にかかる「軸力(柱の長さ方向に押しつぶそうとする力)」が大きくなってきます。
とても細い竹ヒゴよりも太い丸太の方が押しつぶそうとする力に対して強いのは、皆さんが感覚的に理解するところだと思いますが、柱の耐力を超える力が加わってしまうと、その柱は座屈してしまうのです。

当初は、大きな軸力がかかってくる柱には、強度を大きくできる集成材の4寸(120mm)角柱や、よりサイズの大きい壁柱を用いる前提で考えていたのですが、前回のブログでご報告した通り、現在集成材の供給はありません。
そこで、仮に、現在供給可能と言われている木材のうち比較的強度の高い3.5寸(105mm)角の米松の柱を用いた場合に、どのくらいの柱が耐力不足となるのか、構造設計者に検討してもらったところ、全体で20箇所を超える柱の耐力が不足することが判明しました。

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構造設計者から受領した各柱にかかる軸力をプロットした資料をじっくり睨んで、柱が軸力不足になる部分を一箇所ずつ見ていくうちに、軸力不足の柱の近傍に柱を追加して、とにかく荷重を分散するアイデアを思いつきました。

その後、構造設計者と更に協議を重ね、耐力が不足する部分の柱をいっそのこと「ダブル柱(2本の柱を緊結して一体化した柱)」としてしまう、というアイデアに展開しました。
そして、大きな軸力に対しても座屈せず強度を発揮できると評価できる、ダブル柱の緊結ディテールを検討しました。

以上の検討により、結果的に、基本的なプランを変更することなく、構造安全性を確保した設計をまとめることができました。

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今回のプロジェクトは木造2階建てであったこともあり、ウッドショックによる構造設計に対する影響が、概ね柱部分のみへの影響で済んだと言えると思います。

構造用集成材の供給がストップしている状況は、実は、構造金物などの使用に構造設計上のポイントがある木造3階建てへの影響が大きいと予想されます。
現在、私共の事務所では木造3階建てのプロジェクトも進行中ですので、改めて別の機会に、木造3階建ての場合のウッドショックへの対応についてもご報告したいと思います。

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七島幸之 + 佐野友美 ななしまゆきのぶ さのともみ

アトリエハコ建築設計事務所

詩的にシンプルな、それでいてユーモラスな建築をつくりたいと考えています。 要素を削ぎ落とすのではなく、生活の為の設えがさりげない在り方で生活を彩る、シンプルな家。 姿カタチや空間の佇まいに住まい手の個性が垣間見えるような、唯一無二の「生活の容器」を自由で柔軟な発想で追求します。

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