設えのある住宅 髙野洋平
前回シンプルな住宅をお勧めしました。今日は設えのある住宅の話です。
前回までの話のながれで、住宅をシンプルに合理化していったらどうなるのでしょうか。建築家であれば住宅の部屋割りを合理化して単純な形体にまとめる事ができます。夏の日射を反射して熱環境を合理化するとしたら外壁は白でしょう。プランや性能、コストを突き詰めていった先は性能が確保された箱です。しかしそれでは住宅とは呼べません。
ではそれを住宅につなぎ止めているものはなんでしょうか。
私の考えでは「設え」です。
広辞苑で引くと、設けととのえること。飾り付けること。設備とあります。
私たちは今、ある住宅の玄関前に立っているとしましょう。玄関扉には庇がかかっています。庇は雨の日にそこで傘がたためる様にという意味で設備ですが、扉の前を住宅の玄関然とした空間にととのえる役割も持っています。玄関を入ると土間があって框があって靴を脱いで上がります。段差は泥を室内に入れない為の設備ですが、ここから室内ですよという境界もつくっています。
そこに設けととのえられた框の高さや幅、厚みによって、上がる瞬間の心持ちは随分違います。そこにある「設え」で空間の印象がかわるのです。
建築家に住宅を依頼すると格好良くデザインしてくれると思われがちですが、形を自由に造形するということは実はほとんどありません。多くの場合先に書いた様な「設え」をしています。ある部分で必要なものの姿をととのえて、そこにふさわしい場面をつくっていくわけです。
建築家のつくる住宅にはそうやって丁寧につくられた場面がたくさんあります。
性能やコストだけでは語れない、本当に住みやすい「設え」のある住宅はいかがですか。
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