住宅の玄関ドアや玄関引き戸をオリジナルで作ってみよう @石井正博+近藤民子
今週の “リレーブログ” を担当します、設計事務所アーキプレイスの石井正博+近藤民子です。
私たちは男女ペアの視点を活かして、暮らし易さと(光と風、家事動線、収納など)とデザインのバランスのとれた心地よい住まいをめざし、「敷地とライフスタイルを活かした家づくり」をテーマとして設計活動をしています。
住まいの顔となる玄関は家全体の印象に大きく影響します。玄関の広さ、収納の量や方法、仕上げの種類や色合い、窓の有無や明るさ、上がり框の高さなど、暮らしやすさや住まいの快適性に影響すると同時に、建て主の個性をイメージさせるものでもあるので、しっかりと検討して決めて行きたい部分です。
今回のリレーブログでは玄関周りで重要な役割を担う玄関ドアや玄関引き戸について「住宅の玄関ドアや玄関引き戸をオリジナルで作ってみよう」と題して書いてみたいと思います。建築家との家づくりにおいては、玄関ドアや玄関引き戸はメーカーの既製品の中から選ぶだけでなく、オリジナルで作るという選択肢がある部分ですので、メリット・デメリットを含めて玄関ドアや玄関引き戸の可能性についてお伝えできればと思います。
具体的な事例に入る前に、玄関ドアと玄関引き戸のそれぞれの特徴などについて簡単に触れてみます。
■玄関ドア
引き戸との比較になりますが、一般的には防犯性や気密性が高く、レバーハンドルや握り玉、プッシュプルハンドルで開け閉めします。吊り元側には蝶番やピボットヒンジがあり、自動的に閉じる機構をもったクローザーをつけます。ドアの開閉スペースが必要となり、車椅子の使用には向いていません。
■玄関引き戸
引き戸はドアのような開閉スペースが必要ないため、スペースを節約できますが、引き戸を引くための幅が隣に必要となります。ハンガータイプであれば軽い力で開閉でき、開閉スペースもないので、車椅子の使用には向いています。機構上、気密性や防犯性はドアに比べると劣ります。
■建築法規と玄関ドア・玄関引き戸
防火地域や準防火地域の場合、玄関の位置が法規上の「延焼の恐れのある部分」にかかると、玄関ドア・玄関引き戸を防火設備とする必要があります。具体的には木製で作ることは難しく、スチールで製作することになります。大きさについては、法規上の規制はありませんが、人の出入りや物の出し入れに支障のない有効幅や高さにします。
■玄関ドア・玄関引き戸の材質
玄関ドア・玄関引き戸の代表的な材質は、アルミ製、スチール製、木製になります。既製品の主流は窓サッシメーカーのアルミ製ですが、木製やスチール製の既製品あるいはセミオーダーのメーカーもあります。
オリジナルで製作する場合は、スチール製か木製になります。
スチール製は強度や寸法安定性、防火性に優れていますが、耐食性は塗装の性能に左右されるため、仕上げ塗装を慎重に選ぶことが大切です。また、扉内には断熱材を充填し、枠周りも気密性を高める加工を施すことが必要です。
木製は強度や寸法安定性、防火性はスチールやアルミに比べると劣るため、取り付け場所の環境や木の材質を考慮した仕様や形状に気を配ります。木にはある程度の断熱性はありますが、扉内には断熱材を充填して断熱性を高めます。枠周りや扉小口の形状には工夫を施し、接触部に気密パッキン材を使って気密を高めます。扉位置は雨がかりを避けることを基本とし、木材保護塗料を塗って仕上げるとともに、2年目、5年目、10年目など定期的に保護塗料を塗布します。
■玄関ドアや玄関引き戸をオリジナルで製作するメリット・デメリット
最大のメリットは、ドアや引き戸の大きさやデザインが自由であることです。これは単に部材としてのデザインが自由ということではなく、建物全体のデザインの中で一体的に考えられることが大きな魅力です。外壁の板張りと同じ木を玄関ドアにも貼って壁と一体的に見せたり、既製品ではできないデザインにすることもできます。
デメリットは、既製品のような製品自体の安定性や性能面では劣る点があることです。電気錠を組み入れることもできますが、システムキーのように近づくだけで開閉できるような特殊な作りにはしにくいところです。(今後できるように成ると良いのですが。)また木製の場合は、環境によって狂いが生じることがゼロではありません。長持ちさせるには定期的なメンテナンスが必要となります。
■玄関ドアや玄関引き戸のオリジナル事例
【1】木製の玄関ドア
木製の玄関ドアの魅力は、工業製品にはない、自然素材である木の暖かみのあるデザインにできることです。ドアの大きさ(幅や高さ)を自由にでき、袖部分や欄間に明かり取りのガラスを入れたデザインにするなど自由にできます。注意点としては、定期的なメンテナンスが必要なこと、雨がかりを屋根や庇で避けることになります。西日が強すぎる場所では痛みの進行は早くなります。
また、ドアのサイズが必要以上に大きいと、ドア自体が重くなるため狂いも生じやすく、開閉時にも重たく感じるので注意が必要です。
>>くるりある家
レットシダー材を横張りとし、着色保護塗料にキシラデコールを塗って仕上げています。袖壁、枠、玄関ドア、全て木製でインテリアの木部の色と同じ色で揃えています。
>>猫と暮らす中庭のある家
建て主の方のこだわりに色であったダークグリーンの縦ラインの金属系サイディングに合わせて、木の色をダークブラウンにキシラデコールで着色。玄関ドアのハンドル側には外の様子がわかるスリット窓を設置。ドア本体には外壁面と同じ杉板(板目、節あり)を張って仕上げて、玄関ドアを壁に溶け込ませています。
【2】スチールの玄関ドア
オリジナルで作るスチールの玄関ドアは、大きさが自由にできるので、ドアの大きさ(幅や高さ)を自由にでき、袖部分や欄間に明かり取りのガラス入れ、玄関やポーチの広さや天井の高さに合わせて、自由にデザインできます。変形することは少なく、気密性や防犯面も安心です。
塗装仕上げの場合は日本塗料工業会の色見本帳などから色の指定ができるためお好みの色で仕上げることができます。日々触れることになるハンドルの形や仕上げも、ハンドルメーカーの膨大なカタログの中からお気に入りを選ぶことができます。また、仕上げは塗装だけに限らず選択肢も広いため、注文住宅ならではの特徴のある玄関ドアを作れることも大きな魅力です。
>>蕨市のコートハウス
建て主の方が応援されているサッカーチームのイメージカラーの赤に塗装した玄関ドアです。壁側にはスリット状に明かり取りのガラスを入れています。
>>それぞれの時間を大切に犬猫と暮らすコートハウス
袖壁部のガラスから柔らかな光を入れ、ドアはフラッシュで、枠周りをシンプルな形にデザインした玄関ドア。塗装は耐久性が高く、マットで独特の素材感が魅力的なフェロドール塗装で仕上げています。ハンドルはプッシュプルハンドルで、握る→引き下げる→押す(または引く)の3アクションのレバーハンドルよりも、握る→押す(または引く)の2アクションの動きで開け閉めできるハンドルです。
>>室内化したテラスを持つ家
スチールの玄関ドアの袖にガラスのFIX窓やスチールの袖壁部分と一体的にデザインした事例。素材感にこだわりのある建て主の方が選ばれたのは、いくつかご提案した中のリン酸処理仕上げで、インターホンのカバーやポスト口も一体でデザインしています。
>>住宅紹介動画 Houses_Movie05 室内化したテラスを持つ家
>>木立の中に佇む家
一見、木製のドアに見えますが、実際はスチール製のドアに、外壁と同じロシアカラマツの板を張って木製保護塗料で着色して仕上げた事例です。積雪が多く、湿気が高い地域で、かつ、オートロックの機能を盛り込む必要があったため、狂いの心配のないスチールドアにした事例です。
>>独立した二世帯が集う家
こちらも木製のドアに見えますが、実際はスチール製のドアに、外側の仕上げとして外壁と同じレッドシダーの板を張って仕上げた事例です。
>>住宅紹介動画 Houses_Movie03 独立した二世帯が集う家
>>東京タワーと桜の見える家
スチールドアをベースとして、建て主の方と外部側の様々な仕上げを検討した結果、光の当たり方や見る角度によって表情が変化するガラスモザイクタイルを貼って仕上げた特殊な玄関ドア。鍵は電気錠で、縦長のハンドルを付けています。
室内側はフラッシュのままとして、白く塗装してシンプルに仕上げドアクローザーもコンシールドとしてすっきりさせています。
【3】木製の玄関引き戸
木製の玄関引き戸の魅力や注意点は木製のドアとほぼ同じです。
木製の引き戸はスチール製よりも軽くでき、費用も抑えられます。反面、気密性を高めるためには、様々な工夫を加える必要がありますが、引き戸の機構上および製作上の限界があります。
>>囲まれた家
玄関前に駐車した場合でも開閉しやすいこと、将来、車椅子を使うようになった場合にも出入りしやすいようにという要望から、引き戸とした事例。ハンガーレールを用いた引き戸は板張りの外壁と合わた同一仕上げです。
>>風が吹き抜ける家
木製の引き戸とする場合は、防犯面においてはスチール性よりも弱くなるため、工夫が必要となる場合があります。引き戸ごと外されないようにするために、壁の中に引き込む引き込み戸とした事例です。
【4】スチールの玄関引き戸
>>ひかりを組み込む家
ドアのような開閉スペースの必要がないため、駐車スペースとの距離がとれない場合にも引き戸は有効です。1階の外壁仕上げと同じガラスモザイクタイルを貼って仕上げた特殊な玄関引き戸です。
【5】特殊な玄関引き戸
>>白山の家
土地柄から、地域のお祭り時には1階のピロティから土間玄関までを開放して地域の人たちに使っていただけるようにというご要望を叶えた、3枚の引き戸の玄関です。普段も明るい玄関になるように、スチール枠にポリカーボネートの面材を内外に嵌め込んだ建具を製作しました。
【6】玄関ドアと玄関引き戸のまとめ
玄関ドアや引き戸は毎日使う部分で、機能性、耐久性、防犯性、気密性などの性能面も大切となる部分です。一方で、住宅の顔となる意匠的に大事な部分でもあり、住まいの印象を大きく左右する部分でもあります。
既製品には性能面での安心感はありますが、意匠面での物足りなさが残り、大きさの不自由さもあります。オリジナルで製作する時の、特徴やメリット・デメリットを理解した上で、世界でただ一つの玄関ドアや玄関引き戸を作ってみてはいかがでしょうか。
建築家31会には、さまざまな知識と経験を備えた建築家(一級建築士)がいますので、必要な時はぜひご相談ください。
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「江戸Styleの家」オープンハウスを11月30日(土)に開催します。2005年7月に竣工した自邸兼モデルハウスです。約19年が経過していますので、無垢の木などの自然素材が時間の経過とともに美しく変化(経年美化)している様子を確認することもできます。自然素材の小振りな住まい、あたたかく気持ちのよい和モダンな住まいの雰囲気をご自身の目と心で体感してください。 *「江戸Styleの家」はエコの取り組みでグッドデザイン賞を受賞しました。 *2021年12月「渡辺篤史の建物探訪」、「突撃!隣...