老朽化した大谷石擁壁の改修事例のご紹介 @七島幸之+佐野友美

前々回のリレーブログでは、コロナ禍の最中、構造部材の選択肢が狭まった木材の供給状況下において、ご家族の要望を満たす「高天井かつオープンなプラン」を成立させるために行った構造設計上の工夫についてお伝えしました。

ウッドショックの最中での実施設計ケーススタディー 構造部材の選択肢が狭まった木材の供給状況における構造検討 @七島幸之+佐野友美

その後、現場が順調に進み、今年1月無事に竣工を迎えることができました。

<津田山のガーデンハウス> photo:Brian Sawazaki Photography / 澤崎信孝

写真は前面道路側から建物を見た全景ですが、地盤面が前面道路よりも2M程度高い、南斜面の雛壇状の敷地条件。

この住宅は、昭和初期に開発された住宅分譲地における、戸建住宅の建て替えプロジェクトでした。

上の写真にも写っていますが、前面道路と敷地とのレベル差を解消する擁壁は大谷石の組積造のものだったのですが、今回のリレーブログでは、この擁壁の改修についてご紹介しようと思います。

photo:アトリエハコ建築設計事務所

大谷石は、柔らかく加工がしやすいことから、古くから蔵の外壁や塀に使われてきた材料で、この住宅分譲地でも、擁壁として、まだ至るところに当初のまま多く残っています。

耐火性、防湿性などに優れている反面、多孔質な性質から風雨に晒されると吸水・膨張などを繰り返すことになり、その結果剥離などの劣化が生じてきます。

この家族にとっては、劣化の進行する大谷石擁壁は安全性の心配があり、主屋の建て替えと同じくらい悩みの種となっており、主屋の設計当初から、当該大谷石擁壁の改修方法についてもご相談を受けていました。

 

大谷石擁壁の改修方法として、いくつかの方法を検討しました。

1.御影石貼り

これまで、大谷石がボロボロと剥離する様子を気になりながら生活をしてきたお施主さんご家族は、その改修にあたって、より硬質でモダンで洋風な風合いの仕上がりをご要望でした。

そこで、まずは、お施主さんのお好みに合うダークグレーの御影石を貼ることを検討したのですが、その下地となるのが何分柔らかい大谷石ということから、その施工を請け負ってくれる石屋さん・外構屋さんが見つからず、この方法は断念しました。

 

2.大谷石の切石貼り

ある日、大谷石を専門に取り扱っている石屋さんが見つかりました。

その業者さんは、新設・改修を問わず、組積造・仕上げ貼りを問わず、また石の貼り方においても、厚み・割付など様々な経験を積んでいるようでしたので、既存大谷石表面の劣化部分を除去した上で改めて大谷石を貼る改修工事の見積をしてもらいました。

見積もり金額も妥当で、洋風のボーダー割付のモダンなデザインの改修が出来そうだったですが、新しくなったとしても大谷石の特徴である耐候性への心配が残ることから、採用されませんでした。

 

3.モルタル塗り

最もベーシックな大谷石擁壁の改修方法がモルタル塗りでして、インターネット上でもかなり改修事例が見つかります。

実は、ご近所にも大谷石擁壁をモルタル改修したお宅がチラホラあったのですが、組積造の上にモルタルを塗っている為ヒビ割れなどを起こしているお宅が多いこと、表面がのっぺらぼうで若干貧相な印象となってしまうことから、採用できませんでした。

 

4.鉄骨下地組の上サイディング貼り

石屋さんや左官屋さん以外に、外構工事屋さんが何か良いアイデアを持っているのではないかと思い付き、知り合いの外構屋さんに改修方法を相談しました。

外構屋さんの見解では、既存大谷石が、表面からどの程度の厚み(深さ)の部分まで劣化しているのか分からず、表面に何かを施すことは賢明ではないとのことでした。

その代わりに、大谷石擁壁を跨ぐ形で鉄骨のフレームを組みサイディングなどを貼る工法の提案を受けましたが、これは大谷石擁壁を全て解体してRC擁壁を一から作るのと同じ位のかなり高額なコストがかかる工法であった為、採用できませんでした。

 

5.モルタル補修の上ジョリパット

最もベーシックな大谷石擁壁の改修方法がモルタル塗りであることは先に述べた通りですが、インターネットで数々の事例を検索している中で、大谷石のモルタル補修にかなり自信を持っているらしき左官業者さんを見つけました。

その左官業者さんの事例で、大谷石のモルタル補修において後々割れなどが発生しないようにする為の丁寧な施工が紹介されており、モルタル補修もその改修工法によっては安心できる施工方法となり得ることがわかりました。

そこで、大谷石擁壁をまずはモルタル補修した上で、ジョリパットでテクスチュアを付けるアイデアを思い付き、様々なテクスチュア・色目のサンプルを作成しました。

石などの高額な材料を使わない工法であることもあり、見積金額もリーズナブルで、仕上げのテクスチュアについても、お施主さんに気に入って頂き、晴れて採用となりました。

以下に、その施工状況などをご覧頂きます。

既存大谷石擁壁の劣化部分を斫る <左官業者さんの施工報告書より>

大谷石にモルタルを強固に接着すべくモルタル下地のラス網を取付 <左官業者さんの施工報告書より>

モルタル割れ防止のネットを伏せ込みながらモルタルの重ね塗り <左官業者さんの施工報告書より>

最終的な仕上がりは水平ラインを強調した櫛引<左官業者さんの施工報告書より>

photo:アトリエハコ建築設計事務所

最終的に仕上がった状況の写真です。

大谷石擁壁上部に積まれていた既存ブロック塀も一体化した仕上げとすることにより、スッキリとした印象となり、お施主さんにとても喜んで頂きました。

また、仕上げのジョリパットも、異なる2色を重ねて用いることにより、それなりに重厚感も出たのではないかと思います。

photo:アトリエハコ建築設計事務所

こちらのお宅は、既存樹木の植え替えなども含めた庭づくりを検討中で、現在植栽屋さんと一緒に庭づくり検討の真っ最中で、これからもまだしばらくお施主さんを訪ねることが続きそうです。

 

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七島幸之 + 佐野友美 ななしまゆきのぶ さのともみ

アトリエハコ建築設計事務所

詩的にシンプルな、それでいてユーモラスな建築をつくりたいと考えています。 要素を削ぎ落とすのではなく、生活の為の設えがさりげない在り方で生活を彩る、シンプルな家。 姿カタチや空間の佇まいに住まい手の個性が垣間見えるような、唯一無二の「生活の容器」を自由で柔軟な発想で追求します。

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