築45年の木造住宅の耐震改修と断熱改修@石井正博+近藤民子

今週のリレーブログを担当します、設計事務所アーキプレイスの石井正博+近藤民子です。

近年、資材の値上げや職人不足などによる建築費の高騰がおさまらない中、マンションや戸建て住宅のリフォームという選択肢も増えています。このブログでは耐震改修と断熱改修を行なった築45年の木造住宅のフルリノベーション『レトロモダンなフルリノベーション』をご紹介いたします。

都内にお住まいの建て主の方は、弊所のホームページやインスタグラムをご覧になり設計相談に来られました。

理想とする住まいの具体的なイメージをお持ちで、デザインに対する拘りも強く、また、杉並区の耐震改修の助成金のことなど、熱心に勉強しておられました。建て主の方は30代のご夫婦と二人の男の子の四人家族です。

1】詳しいご要望を伺ったあと現調に行きました

45年の2階建の木造住宅は、ご両親がお住まいの母屋(鉄筋コンクリート造3階建)と接して建っており、玄関の別れた二世帯住宅のような形態で、1階部分は鉄筋コンクリート部分と木造部分が行き来でき、住居として一体的に使われていました。独立した玄関は鉄筋コンクリート造の部分にありました。

<フルリノベーションでの主な要望>

1)住まいとして使われている木造2階建て部と鉄筋コンクリート造部の全面改修

2)ただし、遠い将来には木造部分だけでも生活が成り立つようにする

3)玄関の位置を変更して、道路から直接木造部に出入りできるようにする

4)今のライフスタイルにあった間取りに変更(主に収納計画)

5)仕上げ、家具、照明などデザインに拘りたい。昭和レトロな雰囲気が好み

6)区の助成金を使いながら木造部の耐震改修も行う

7)冬暖かく夏暑くないように窓を改修する(カバー工法、内窓、交換)

8)費用を見極めながら、外壁や屋根の改修も検討したい

【2】改修後のプラン

何度も何度もやり取りを繰り返しフルリノベーションのプランがまとまりました。

<改修前プラン>


<改修後プラン>


敷地南東側に駐車スペースとアプローチ設けて、玄関を木造側に変更。浴室やキッチンの水回りの位置も変え、鉄筋コンクリート部は衣類収納やスタディスペースとして利用。
木造部分では北側の階段に大きな窓を設けるとともに、ダイニングとなる部分の上部の梁を架け替えて吹き抜けを設け、
12階の繋がりを生み出した案です。これによりLDKの開放感が高まると同時に、北側にも明るさが生まれ、風も流れやすくなります。

<改修後 断面図>

1階床下には押出法ポリスチレンフォームB類3種65mm(熱抵抗値R=2.3m2K/W)、外壁には高性能グラスウール アクリアネクスト14K 105mm(R=2.8)、天井とベランダ下には高性能グラスウール アクリアマット 155mm×2枚重ね(計R=8.2)の断熱材を入れます。
断面図上の青い梁は、ダイニングに吹抜けを設けるために新たに架ける梁です。敷地は道路面より550〜800mm高くなっています。

【3】基本設計、実施設計、見積もり依頼

建て主の方とは2週間に1回程度の対面でのお打ち合わせやメールやLINEでのやり取りを経て、基本設計、実施設計をまとめます。施工会社2社に実施設計図を渡して見積もりを依頼。


【4】施工会社の決定、工事契約、着工

見積もりの精査と調整、一部設計変更を経て、ご予算内におさまることを確認して工事会社を決定。着工しました。

リノベーション工事では、解体して見ないとわからない不確定要素があります。
木造部分の床や壁には既存図面のとおり断熱材が入っていませんでしたが、築20年程度の鉄筋コンクリート造部分にも断熱材の入ってない壁がありました。また、排水経路や給水経路は既存図面とは違っていました。
浴室の場所が変わったため腰壁のコンクリートは一部解体。木造部の基礎が足りない部分には、鉄筋コンクリートで新たに基礎を作りました。

改修工事に慣れた大工さんだったこともあり、柱の追加や梁の補強、滑車を使っての梁の架け替え工事も手際よくできました。
一方で、2階の床には傾きがあり不陸調整(平らにすること)には手間と時間がかかりました。

解体後、屋根からの雨漏りが数箇所見つかりました。建て主の方に報告相談して、現在の屋根材(スレート)の上に木下地を入れて、カルバリウム鋼板の屋根材をカバー工法で葺きました。当時のスレートにはアスベスト混入の可能性があるので、解体撤去せずに費用を抑えました。漏水の危険のある母屋との間の板金の修理も行いました。

【5】窓の断熱改修

木造部の窓は大きさや位置をプランに合わせて変更し、性能の高い(熱貫流率Uw1.5~1.9W/m2程度)のアルミ樹脂複合のLow-Eペアガラス(アルゴンガス入)サッシに交換。
鉄筋コンクリート部の窓は、大きさが簡単に変えられないため、性能の高い(熱貫流率Uw2.3W/m2程度)のアルミのLow-Eペアガラス(アルゴンガス入)サッシをカバー工法で取付け。

窓の断熱改修には、壁を壊さずに樹脂製の内窓をつける方法もありますが、今回は交換工法とカバー工法で窓の断熱性能改善行いました。
環境省の「先進的窓リノベ」事業の補助金も工事会社を通して受けました。

【6】拘りのドア

玄関からリビングに入るところのドアは、アンティークな雰囲気のものを探されましたが、コストパフォーマンスがイマイチ。そこで図面を書いて建具屋さんに製作してもらい、塗装屋さんに年を経た風合いを感じられるように塗ってもらいました。ガラスにも吹きガラスのようなムラのあるものを探して使用。

 

【7】キッチンは最後まで悩まれました

キッチンは既存壁の関係で3.1m×3.1mの正方形スペースに計画する必要があり、何度も形や配置を検討しました。LIXILTOTOWOODONEなどからのプランも検討されましたが、セミオーダーの制約やご予算のこともあり、なかなか満足する形や仕上げにならず現場に入ってからも検討を重ねました。フルオーダーで工事会社に制作してもらうためにキッチンや家電収納、食器棚の家具図を書いて見積もりもとりました。最終的にはキッチンはL字形でタカラスタンダードに。その他の家電収納、食器棚は、器用な大工さんに家具図を渡して制作してもらいました。

大工さん制作の家電置き場(写真右)もレトロな雰囲気でできました。

【8】タイルは建て主の方の自主施工

キッチンをはじめとして、洗面室、玄関手洗いの壁タイルは、職人さんに道具を借りて、現場監督さんの指導のもとで建て主の方が貼られました。とても几帳面に施工され、工事費の節約以上に貴重な思い出にもなられたようです。

洗面化粧台も人造代理石のカウンター以外は大工さんの施工です。

【9】耐震改修工事

木造部の耐震改修工事では、区に登録されている木造耐震診断士の方に協力いただきました。

1)木造住宅の耐震精密診断法 報告書
現状はどの程度の耐震性があるかどうか、既存住宅の図面や現地の建物調査から判定します。

<評点>  
2
階 X方向 0.10        1階 X方向 0.09
2
階 Y方向 0.33        1階 Y方向 
0.03

既存住宅は、東側は窓が多く耐震要素が不足しており、南側は大きな窓があり耐震要素が不足していると同時に、12階の壁が910mmずれているので「倒壊する可能性が高い」との判定となりました。


2
)耐震改修では各階各方向<評点>1.0以上とする(耐震等級1相当)
<評点>1.0以上とすることを目標に作成された「リフォーム補強案」に基づき、改修プランの所定の位置に耐震壁や柱を設けます。耐震壁は有効に働くように柱頭は梁に、柱脚は土台や梁に所定の構造金物で緊結。2階の水平構面(バルコニー部)は構造用合板と補強金物で固めます。壁の構造用合板を四周で固定できない2階では、ガーディアンウォールという認定品の耐力壁を使いました。


工事中には、施工した構造金物などの記録写真を残し、金物が全て施工された段階で、耐震診断・耐震改修案を作成された方とは別の検査担当者の方の現場検査を受けました。

工事完了時には、工事記録写真をまとめて、実際に使った金物と資料、施工図とともに検査担当者を通して区に提出。(これはA440枚ぐらいになり大変な作業でした)
提出した資料に問題がなければ助成金の申請・受領へと進んでいきます。

【10】完成写真

ダイニングから庭側を見る。床はチークの複合フローリングでアンティークのドアは玄関への入り口。右の開口はスタディコーナーのある鉄筋コンクリート部側への入り口。

ダイニングからは吹き抜けを通して2階が見え、階段に大きな窓をつけたので北側も明るくなりました。階段横の開口はファミリークローゼットのある鉄筋コンクリート部側への入り口。

吹き抜けからダイニングを見下ろす。既存住宅では分断されていた1、2階に繋がりが生まれて、家族の気配が伝わりやすくなりました。

外壁は既存壁(ラスモルタル塗り厚20、スタッコ吹付)の上に、ライトグレーの左官仕上げ(ジョリパットアルファJP-100、サンディング仕上/T3403)、バルコニーの手すりは間隔を詰めた板張り(レッドシダーに着色保護塗料キシラデコール/カスタ二)としてイメージを一新しました。玄関ポーチの屋根と目隠し壁は、ガルバリウム鋼板(耐摩いぶし銀)の平葺き仕上。

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ここまで木造住宅の耐震改修・断熱改修を含めたフルリノベーションについて、弊所の『レトロモダンなフルリノベーション』の大まかな流れに沿って説明してきました。耐震改修や増改築、リフォームやリノベーションをご検討中の方の参考に少しでもなれば幸いです。

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設計事務所アーキプレイスでは、石井正博と近藤民子の男女ペアの視点を活かして、暮らし易さ(光と風、家事動線、収納など)、性能(安全性、断熱性、防犯性、耐久性など)、デザインバランスのとれた心地よい住まいをご提案しています。

著者情報

石井 正博 + 近藤 民子石井 正博 + 近藤 民子

石井 正博 + 近藤 民子 いしいまさひろ こんどうたみこ

設計事務所アーキプレイス

「敷地とライフスタイルを活かした家づくり」をテーマに、暮らしやすさ(温熱環境・家事動線・収納計画など)、デザイン、コストのバランスのとれた質の高い家づくりを建て主の方と一緒にめざします。

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