より良い土地探しの為のケーススタディ<敷地の方位が建物の形態に与える影響> @七島幸之+佐野友美
前々回のリレーブログでは、私共の事務所のこれまでの都心狭小敷地における住宅の設計経験を踏まえて、高額の土地代金に見合うだけの家族の生活の場を捻出する為の敷地の有効活用、より具体的に言うと、敷地の可能性を最大限に引き出す設計手法についてお伝えしました。
敷地の可能性を最大限に引き出す、木造で自由な空間構成を実現するための設計手法と、現在進行中のウッドショックから受ける影響 @七島幸之+佐野友美
さて、上記のブログでご説明したコンセプトは、私共が設計をする際に常々心がけていることではあるのですが、それは当然、お施主さんからの家づくりのご相談を踏まえて、そのお施主さんの具体的な敷地の条件に対して我々設計者が検討をする際のお話、言うなれば、設計者サイドの技術・ノウハウ的な話になります。
しかし一方、お施主さんからすると、設計事務所に家づくりを相談する前にまず何らかの形で家を建てる土地を確保する必要がある訳で、その土地探しの段階で、お施主さん自身が、どういう土地に大体どういう感じで家が建つのかイメージが出来ればそれだけで随分土地探しが楽になるのに!というのが実感なのではないかと思います。
そこで、今回のブログでは、私共のこれまでの設計事例を用いて、敷地の形状とその方位に応じてどういう形態の建物が建ったのか、ケーススタディとして、ご報告したいと思います。
●南入り敷地の事例>>品川の住宅
photo:URBAN ARTS / Shinsuke Kera
まず最初に、南側に前面道路がある事例です。
東京都品川区、面積約19.8坪・間口約4.3Mの敷地に建つ木造3階建ての戸建て住宅です。
用途地域は第一種住居地域、高度規制としては第2種高度地区の敷地です。
東京都の第2種高度地区の場合は、北側の隣地境界から5M立ち上がったところから1:1.25の角度で高さ規制がかかってきますので、この住宅の場合も北側の3階部分は斜線規制に従ったカタチで屋根が削られる建物形状となりました。
photo by アトリエハコ建築設計事務所
上の写真がこの住宅の3階北側の子供部屋です。
斜めの屋根に天窓を設けて、少し篭り感のある屋根裏部屋のような雰囲気の部屋となりました。
南入りの敷地の場合は、この事例のように、北側奥で北側(高度地区)斜線制限の影響を受けることにはなりますが、建物形状に対する制約はむしろ限定的で最上階の一部屋のみで済むと言えます。
また、建物の室内環境の点では、南側の前面道路側から比較的良好な採光を確保できる敷地条件になると言えると思います。
●東入り敷地の事例>>南烏山の二世帯住宅
photo:URBAN ARTS / Shinsuke Kera
次は、東側に前面道路がある事例です。
東京都世田谷区、面積約39.6坪・間口6M×奥行22Mの敷地のRC造3階建ての2世帯住宅です。
1階に親世帯、2階以上に子世帯を配置した、完全分離型の2世帯住宅・重層長屋です。
用途地域は第一種中高層住居専用地域、高度規制はこちらも第2種高度地区の敷地でした。
この敷地においては、写真の向かって左側が南側でこちらから太陽の陽が射すことになり、反対側右側の北側敷地境界線から5M立ち上がったところから1:1.25の角度で高さ規制がかかることになります。
この敷地は間口に対して奥行寸法の大きな敷地でしたが、この長い奥行方向全てが北側の斜線制限の影響を受けることになり、3階部分の北側には部屋を作れないので、3階部分が2階部分のボリュームからセットバックした断面を奥行方向に押出成形したようなボリュームの建物形状となりました。
またこの敷地の場合は、採光を求めたい南側ギリギリに隣地境界線が迫っており、将来マンションなどが建ってしまった場合は良好な採光が望めなくなってしまう条件でした。
この条件を踏まえて、建物の基本的な設計方針として、隣地建物の影響を受けないよう出来るだけ高窓により採光を採ることにしました。
また、2階の子世帯のリビングに吹抜けを設けましたが、この吹抜けに吊り下げるカタチでテラスを設け、春夏秋冬一日を通して周辺環境の影響を受けずに採光を確保できる住空間を作りました。
<この事例は東入りでしたが、建物のボリューム確保の観点からは、西入りの敷地も同条件となると思います>
●北入り敷地の事例
photo by アトリエハコ建築設計事務所
最後は、北側に前面道路がある事例です。
東京都世田谷区、面積約19.5坪・間口7.5Mのほぼ正方形の敷地に建つ木造3階建ての戸建て住宅です。
1階にガレージと玄関、2・3階に家族の生活スペース、そして屋上テラスという断面構成です。
用途地域は第一種住居地域、高度規制はこちらも第2種高度地区の敷地でした。
実は、この住宅は土地探しの段階から家づくりのお手伝いをしたプロジェクトでした。
家づくりに際してのご要望が比較的はっきりしていて、まず第一にキャリアを付けたワンボックスカーを収容できるビルトインガレージ、そして太陽光発電パネルの設置も可能な屋上テラスが欲しい、というお施主さんでした。
1階にビルトインガレージで有効高さを確保の上に、屋上もフラットにテラスを設ける必要があるということで、何よりもまず建物の高さを十分に確保できる敷地を探しました。
世田谷区内で、お施主さんのご予算に合いそうな敷地の候補を幾つか比較検討した結果、他の敷地に比べると面積は小さいものの、北側道路で敷地の間口が広いこの敷地をオススメしました。
今回のブログにおけるキーワードでもある「高度地区」の北側斜線は、実は、北側が道路だとその道路の反対側の境界線を北側斜線の基準として良い、つまり道路幅員だけ北側斜線のスタートラインが遠くになるという緩和があり、建物のボリューム確保の点でとても有利だからでした。
また、間口の広さもガレージ開口をしっかり確保しながら、それとは別に建物へのアプローチ確保に有利でした。
果たして、必要高さをしっかり確保したビルトインガレージと、将来太陽光発電パネルの設置も可能なフラットな屋上テラスを備えた、4人家族の3LDK住宅が実現しました。
●まとめ
今回のブログでは、南入り、東入り、北入りの3種類の敷地タイプをご説明させて頂きました。
実は、建物の計画の制約となる敷地の条件として、北側の斜線制限以外にも様々なものがあります。
ただ、お施主さんが土地購入を検討しようとした時にその土地にどのような感じで建物が建つのかを大雑把に把握する方法としては、上記のイメージはそれなりに役に立つのではないかと考えています。
家づくりを検討されている皆さん、土地探しはとても大変な作業ではありますが、土地のポテンシャルを活かせれば、より良い家づくりが可能となりますので、ぜひ頑張ってください。
もちろん、私共設計事務所もいつでもご相談に乗れます。
必要な場合には、ぜひお気軽にお声がけください。
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