贈与税の非課税措置の活用、住宅ローン減税の申請、ZEH水準省エネ住宅の基準を満たす設計、住宅省エネルギー性能証明書の発行を前提とした設計プロセスのご紹介 @七島幸之+佐野友美
この2〜3年、建設費の高騰を実感することがとても多い気がします。
コロナ禍、ロシア・ウクライナ戦争、ウッドショック、円安などによる物不足・物価高騰に加え、
長らく家づくりの現場に携わるなかで漠然と感じていた、大工さん左官屋さんなど各種の職人さんの高齢化とその結果としての職人さん不足に加えて、各下職さんの福利厚生費が元請建設工事見積に見込まれるようになったこと、昨年2024年から働き方改革が建設現場にも適用されるようになったことなど、様々な要因による人件費の高騰。
材工共のコストアップの要因は数えたらキリがないほどです。
先日、付き合いのある建設会社の社長さんとお話ししたのですが、彼は「2025年3月現在、自分の実感としては、この3年で工事原価が1.5倍になった気がする」と仰っていました。
以前のブログでは、ウッドショックの際の木材の供給不足状況が建築設計に及ぼす影響と、そういった場合の設計上の工夫について、ケーススタディとして記事を書きました。
敷地の可能性を最大限に引き出す、木造で自由な空間構成を実現するための設計手法と、現在進行中のウッドショックから受ける影響 @七島幸之+佐野友美
ウッドショックの最中での実施設計ケーススタディー 構造部材の選択肢が狭まった木材の供給状況における構造検討 @七島幸之+佐野友美
<津田山のガーデンハウス> photo:Brian Sawazaki Photography / 澤崎信孝
上記のブログの記事は、ウッドショックが過ぎ去った現在においても応用が効く内容であると考えてはいるのですが、2025年3月現在の建設コスト高騰の状況において、今回は「家づくりのお金」に関連する記事を書きたいと思います。
■「家づくりのお金」つまり「できるだけ家づくりの予算を減らさない」方法について。
昨年から設計を進めてきた住宅のプロジェクトにおいて、お施主さんとご相談して「贈与税の非課税措置」「住宅ローン減税」を活用すべく進めてきた事例をお伝えしたいと思います。
photo:アトリエハコ建築設計事務所
今回のお施主さんとの出会いは一昨年2023年の4月。
当初は、現在ご両親がお住まいのご自宅を二世帯住宅に建て替えたいというご相談でした。
しかし、現在単世帯であるご両親のお住まいを二世帯住宅に建て替えようとすると、第一種低層住居専用地域の厳しい建坪率・容積率制限から地下をフル活用する必要があり、居室を地下に設けざるを得ないことが判明。
設計上の工夫として、周囲からの雨水浸入などのリスクを回避しながらも自然光を地下居室に導く地下レベルの中庭などを提案しましたが、お施主さんは、以前の大雨の際に、現在ピアノ教室として活用している部屋に雨水が進入した経験があり、最終的には地下居室のリスクを踏まえて、現在の敷地での建て替えを断念することに。
その後しばらく、近隣で二世帯住宅のボリューム確保可能な土地を探していましたがなかなか良いタイミングで求める土地が見つからず、そうこうするうちに、ご実家近くで子世帯の単世帯住宅を建てるにはちょうど良い大きさの土地が売りに出され、ご家族の方針を転換して、子世帯単世帯の住宅を建てることになりました。
新たな土地に単世帯住宅を建てることが決まり、設計契約を行い、早速プラン提案を開始したのが2024年春。
その時点で、ご家族のお話合いの中で、子世帯の新築住宅建築の土地取得と建設費のために、ご両親から補助を行うことを検討されており、ぜひとも「贈与税の非課税措置制度」を活用したい旨、ご要望されました。
この時点で、翌年2025年4月からの建築基準法の改正がアナウンスされておりましたが、改正後の確認申請手続きにおける変更内容は以下の通り。
・「四号特例の縮小」→一般的な木造2階建住宅においても構造審査が必要となる。
・「省エネ基準の義務化」→すべての新築建造物に対して、省エネ基準への適合が求められる。
<国土交通省 2025年4月 建築基準法改正>
仮に工事着工が建築基準法改正後にずれ込むと、確認申請の審査期間の長期化や更なる物価上昇など予期せぬ事態が生じうることから、今回の建物に関しては、とにかく法改正前に工事着工させるスケジュールに乗せることが最も優先されるべき事項と考えられました。
また、法改正前の駆け込み需要により建築工事を依頼する工務店の確保に困難が生じうること、昨今のコスト高などを考えると実施設計後の見積金額調整などに時間がかかりそうなことを考慮すると、設計開始から工事着工まで1年というスケジュールは、決して余裕がある訳ではありませんでした。
その後、様々な可能性を洗い出しながらお施主さんと検討を進め、大雑把なプランの方向性が決まったのが2024年8月。
床面積の算定方法や小屋裏収納の取り扱いなど建築基準法上解釈が分かれうる部分について各民間確認検査機関と事前協議を行い、設計者の考え方を尊重してくれる民間確認検査機関が見つかったのが9月初旬で、そこから本格的な構造設計・耐震検討・部材検討に進みました。
さて、「贈与税の非課税措置制度」を活用することがお施主さんのご要望ですので、設計内容が「非課税限度額が1,000万円に上乗せされる「良質な住宅」」である旨を証明するための手続きが必要です。
<国税庁 贈与税の非課税措置制度>
<国土交通省 贈与税の非課税措置制度>
当初は、長期優良住宅の認定取得の申請を行うことを予定していましたが、木造2階建てとはいえ構造設計上は決して簡単ではない建物であり構造検討に予想以上に時間がかかり、あれよあれよという間に、仮に長期優良住宅の認定申請を行う場合には確認申請提出に待ったなしの時期が近づいてきました。
今回の建物は、木造2階建てとはいえ構造設計事務所にて耐震等級3を取得する前提で構造計算を進めていたので、確認申請で構造審査があっても心配はないのですが、確認審査と長期優良住宅の認定申請を両方同時に進めようとすると、民間確認検査機関で確認申請を進めながら地方自治体と長期優良住宅の認定申請協議を進める必要が生じ、スケジュールが圧迫されてくることは明らかでした。
全てをクリアして、最終的な内容をコスト調整して工事請負契約にも反映した上で、2025年3月中の工事着手に間に合わせることを優先しようとすると、長期優良住宅の認定申請手続きは現実的ではないと思われ、「長期優良住宅の認定取得」の方針を見直すことに。
「長期優良住宅の認定取得」に拘ると、なにより最悪の場合は、工事着手が2025年4月にずれ込み、確認申請はじめ役所手続きがやり直しとなり、建築基準法改正の絡みで設計内容の変更を強いられる可能性があり、物価上昇などでコストが更に上がるようであれば、折角まとまりかけたプランを改めて見直さざるを得なくなる可能性も出てくるという状況。
お施主さんとざっくばらんにお話し合いしたところ、「長期優良住宅」の代わりに「ZEH水準省エネ住宅」が可能であれば、住宅ローン減税を借入限度額3500万円まで受けられるので良し、ということに。
<国土交通省 住宅ローン減税>
<国土交通省HPより抜粋>
ただ、「長期優良住宅の認定取得」のように、時間(認定に伴う金銭的コストも)がかかるのでは意味がなく、やはり気になるのは、設計内容が「ZEH水準省エネ住宅」である旨を証明するための手続き。
ですが、調べてみると、住宅ローン減税の申請に必要な「住宅省エネルギー性能証明書」の交付は、対象住宅を設計・工事監理を実施した建築士が交付可能とのこと。
また、「住宅省エネルギー性能証明書」は、「贈与税の非課税措置制度」を活用する際の、設計内容が「非課税限度額が1,000万円に上乗せされる「良質な住宅」」である旨の証明にも使えるとのこと。
<国土交通省 住宅ローン減税/省エネ性能が必須>
日頃、細かな基準などを満たすことや、基準の度重なる変更への対応に振りまわされている建築士としては、これはとても嬉しい制度。
建築士の本来事務(工事監理の現場調査の事務)と当該証明書の事務調査を一体で実施して、手続きの合理化を図ろうという主旨で生まれた制度らしく、そもそも当たり前のことと思いますが、とても妥当な良い制度だと実感。
昨今、長期優良住宅の認定のために各自治体に審査が殺到する事態が発生しており審査の期間が長期化する状況がありますが、頭を「ZEH水準省エネ住宅」を目指す方針に切り替えれば、設計・工事監理を専らの職能とする我々建築士の工事監理の一環として行う業務が「住宅省エネルギー性能証明書」交付業務と兼ねられるということで、家づくりのスケジュールの短縮、認定申請にかかるコストの削減、プロジェクトの長期化に伴う建築コストアップのリスク回避など、お施主さまの立場においても非常にメリットの大きい考え方なのではないでしょうか。
「ZEH水準省エネ住宅」については、外皮性能基準と一次エネルギー消費量基準の2項目について基準を満たすべく設計をすれば事足ります。
屋根・壁・基礎壁・床などの断熱や開口部の性能が「断熱等級5」、設備機器が「一次エネルギー等級6」を満たす仕様規定を満たす設計を行い、工事段階でその設計通りに工事が行われているかどうか建築士がしっかり工事監理を行い、最終的に建築士法に定める工事監理報告書が交付されれば、あわせて「住宅省エネルギー性能証明書」の交付が可能となります。
果たして、その後諸々の作業や調整を粛々と進めて、先日晴れて現地にて地鎮祭が執り行われました。
これからの現場通いがとても楽しみです。
またの機会に、こちらのお宅の現場や建築についてご案内したいと思います。
photo:アトリエハコ建築設計事務所
アトリエハコ建築設計事務所(@七島幸之+佐野友美)の他事例はこちら>
アトリエハコ建築設計事務所(@七島幸之+佐野友美)のホームページはこちら>
− 最新イベント情報 −
「武蔵野の雑木林を借景にする木の家&エコハウス」完成現場見学会のお知らせ 4/27(日) @小泉拓也+栗原守
調布市で工事中の「武蔵野の雑木林を借景にする木の家&エコハウス」は木造2階建て軸組工法、延べ床面積約30坪の住まいです。太陽熱を利用して200㍑のお湯をつくりお風呂、キッチン、洗面のお湯に利用するエコロジーな住まいになっています。 無垢のクリと杉のフローリング、左官の薩摩霧島壁、沖縄の月桃紙、天井のくりこま杉など自然素材でできた温かく気持ちのよい空間の雰囲気をご自身の目と心で体感してください。 家づくりを計画中の方のご参加をお待ちしています。 ...