観音寺城を巡る1/2 [原風景に想うこと7]南北朝時代からの山城を歩く@石川 利治
織田信長と縁の深い琵琶湖周辺の山城巡り、初めに向かうのは観音寺城[1335-1568]です。
琵琶湖南東に位置する観音寺城は、鎌倉時代からの近江守護職である佐々木氏、後に六角氏が繖山(きぬがさまや)の山上に設けた拠点で、南北朝の動乱期に築かれた日本でも屈指の規模を誇る山城です。1568年に信長が尾張から上洛する折に敵対し、箕作城(みつくりじょう:観音寺城を守るために作られた支城)が1日も持たずに落城したことから、戦わずして六角氏が放棄し落城したといわれます(観音寺城の戦い:1568年)。後年に信長が築城する安土城は隣接する山に築かれました。
観音寺からの眺め 平坦な田畑と緑に覆われた小山が作る風景 正面の山には箕作城址が残る。
訪れたのは2017年の初夏で、JR琵琶湖線の安土駅のレンタサイクルショップで自転車を借り、手作り感あふれる地図と縄張図を頂いて向かいました。城下までは、初夏の晴天に見舞われたこともあり、とても快適で清々しい道程でした。駅前の街並を抜けると、見渡す風景は平坦な田畑が続き、緑に覆われた小山が点在しています。深緑が田畑に切り替わる山の麓の境界が比較的はっきり見て取れる印象を受けました。都内の平野部にも起伏があり、そこを市街化と緑が混在している風景とは明らかに違う、この地域の特徴ではないかと感じました。
しばらくすると城下の石寺楽市に差し掛かりました。土産物屋さんに自転車を置かせてもらい、観音正寺表参道から登城することにしました。
ゆったりとした登り坂が続き、右手に日吉神社を拝みながらさらに進むと斜面が急になり、あか坂道という石段へと変わります。このあたりから、登城する醍醐味(といっても日頃の不摂生を思い知らされる苦しい道のりなのですが・・・)が始まります。
石段を何とか登り切ると、西国第三十二番札所の観音正寺(標高370m付近)の入口に辿り着きます。城下の標高が120m程度なので、ここまでの比高は250m前後でした。比高とは到達点の標高から登り初めの高低差になり、登城難易度の目安となります。今回の登城経路は観音正寺の参道ということもあり、石段が整備されているため、比較的登りやすいのですが、傾斜はそれなりのためキツさはありました。
観音正寺の歴史は古く1400年前の聖徳太子によって開創されたとも伝わります。六角氏がここに居城してからは庇護を受けて栄えたといいます。城としての防御もさることながら、領民の信仰心と統治が密接な関係を持つことの思惑からの流れだった事も想像できます。明治期に彦根城の欅御殿を本堂として貰い受け、移築したそうですが、残念ながら2004年に消失してしまい、2016年に新たな本堂が再建されたそうです。境内一円は整備され、古い建屋も残りますが古刹といった印象は薄れたのかもしれません。
伝馬場丸の光景 ほとんど人が立ち入らないと思われるエリアの遺構の数々
六角氏の居城に際して、多くの家臣たちの屋敷が山の城内あったとされます。観音正寺の北側には山の尾根を利用した大土塁が築かれており、それに沿うような形で屋敷が並んでいた様です。こちらは、尾根伝いの道は、近年に整備された様ですが、あまり人が立ち入ることがないエリアも多くあり、さながら遺跡のような風情を残しています。城址のならではの打ち捨てられた風景が多く残る、心踊る時間をすごしました。
奥の院(伝馬場丸付近)から鳥居を見下ろす 山の尾根は殆ど見向きもされない
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