観音寺城を巡る2/2 [原風景に想うこと8]遺跡と化した山城を歩く@石川 利治
今回はいよいよ観音寺城の城址エリアに向かいます。
繖山(きぬがさやま)全域の縄張図の赤いラインが道筋になりますが、図中の下方の「石寺へ」と記載されているあたりから「あか坂」の石段を進み、観音正寺の三叉路が境内へと続く参道を登って来ました。
図中の表記で「伝〇〇」という記載が多いですが、これは城址の正確な過去の記録が残っていない事によるそうです。発掘は昭和40年代に行われたようで、観音正寺の北側にも遺構が記録されています。添付は滋賀県教育委員会の縄張図を引用させて頂いておりますが、レンタサイクルショップで頂いた手書きのものはさらに細かい記載がありました。こちらは個人で作成された様なので、ここに載せるのは控えさせていただきますが、それによると城域内に家臣の屋敷が多く存在していたことが読み取れます。
観音寺城址には観音正寺境内に沿った脇道を進んでゆきました。
この辺りはあまり人通りが無いのか、結構な雑草の覆われ方をしており、放棄された城をより一層、感じさせられます。こういった場所に差し掛かると、この道筋を進んで良いのか不安になるのですが、縄張図を信じて前に行くしかありません。しばらく進んでゆくと道が少し開け、道端に転がっている大きめの石が増えて来て、目的の場所に近づいたと少し安堵しました。
さらに進むと明らかに石垣と判る遺構が現れ、いよいよ伝本丸に差し掛かりました。
城郭に石垣が使用されるようになったのは安土城以後といわれています。観音寺城は安土城より40年ほど前に築城されているので、戦国時代に石垣を使用した城は非常にまれなケースだった様です。信長の侵攻で放棄された折は殆ど無傷で城域が残ったと思われますので、石垣で陣地が囲われた様子などが、何かしら以後の信長の築城に影響を与えた事は十分に考えられます。程なくして観音寺城そのものは廃城となりました。
石積みとしては野面積みと呼ばれるもので、自然石の表情が多く残る手法です。近江には有能な石工集団が居り、寺院の石垣などを手がけていました。金剛輪寺の普請を手がけていた西座衆が技術提供したらしいです。石の大きさは何とか数人で持ち上げられるようなサイズ感なので、人力で積み上げた感じが読み取れます。自然石に近い石の表面と少し崩れかけた感じが相まって、より手作り感が現れていると思います。それでも、長年の風雪に耐え、現代に当時の様子がうかがえるのはとても見事です。
楔を打って石を割ろうとした痕跡 観音寺技法なる石割の技術があるらしい
城郭は複合的に平坦なエリア(曲輪:くるわ)が連なる、いわゆる「〇〇丸」といった独立しつつ、相互が連携できる単位で構成されています。重要なエリアはより高所で奥側に配置されることが多いのですが、元の地形の高低差を利用しながら縄張り(土木的な計画のことですね)されるので、起伏の様子と攻守の様子をイメージし、何を見るか、どのように行動できるようにするか、さらには土の移動を伴う工学的、数量的な把握といった、総合的な計画センスが非常に問われると思います。この辺りは、傾斜地に建築計画するのと通じる部分が多くもあると感じます(当然、攻守を想定することはありませんが・・・)。
丸相互の高低差を移動する手段として、階段が使われることが多くあります。これは移動する歩幅を強制的に制御する方法にもなり、攻めてくる敵方の進行速度を緩め、守る側に攻撃しやすくする人工物ともいえます。建築に携わる者としては攻守の意識はないため、純粋に機能としての階段をイメージし、そこにヒューマンスケールを感じます。これらが石でできるため現在も形として残り、そのスケール感はそのままに、当時には無かったと思われる木々に覆われた遺構の数々は遺跡を感じさせ、城としての本来の機能をより見えにくくしているのかもしれません。
朽ちることのない石が、崩れかかってはいますが城域全体の構成を維持しつつ、それを緑が侵食し覆ってゆく様子が、手付かずの時間の流れを感じさせます。城址として整備されすぎていない観音寺城の様子は、打ち捨てられた遺構感が非常に感じられる絶妙な山城といえるでしょう。
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