設計事務所・建築家にできること @石井正博+近藤民子

今週の “リレーブログ” を担当します、設計事務所アーキプレイス石井正博+近藤民子です。

私たちは男女ペアの視点を活かして、暮らし易さ(光と風、家事動線、収納など)とデザインのバランスのとれた家づくりを目ざし、「敷地とライフスタイルを活かした家づくり」をテーマとして設計活動をしています。

今回の“リレーブログ”では、家づくりイベントなどで一般の方とお話した時に意外と知られていないと感じることのある、私たち設計事務所が行っている具体的な仕事について「設計事務所・建築家にできること」と題して5回に分けて書いてみます。

1.土地探しのお手伝い
家づくりを土地探しからはじめる時に、設計事務所に相談される方はまだまだ少ないのが現状です。しかし実は土地探しという段階において、設計事務所の知識とスキルは大きな力を発揮します。
変形地や狭小地、周囲を建物に囲まれたまれた土地、旗竿敷地や三方が道路に面した土地など、、、、一見しただけでは、住宅の敷地としてはふさわしくないように見える土地もありますが、設計事務所であればそれぞれの土地の特性を読み解き、都市計画法や建築基準法などの建築関連法規を頭に入れながら、その土地に建て主の方が希望する住まい(規模、生活スタイル、ご予算)を予算内で実現できる可能性があるのかどうか検討し、見送るべきか購入すべきか具体的にアドバイスすることができます。また、家づくりの総予算のなかで土地と建物のおおまかなバランスについてもアドバイスすることもできます。

「建築と不動産の間」(高橋寿太郎 著/学芸出版)は、住宅を建てようとする多くの方がかかわることになる不動産業界と建築業界の間にある大きな壁。二つの業界の価値観の違いを理解し、建て主目線でその壁を超えていく具体的な方法が示されていますので、特に土地探しから家づくりをはじめられる方には、お勧めしたい本です。

土地にまつわる設計事務所の仕事では、農地を宅地にかえる「農地転用」のお手伝い、崖地での新築や建て替え時における「擁壁の安全性の検証」、相続で生じる敷地分割の敷地分割線の比較検討など、他にもさまざまな仕事があります。


くるりのある家では、開発にかからない規模(500m2以下)で、かつ、庭と建物のバランスがよい敷地分割線の位置の検討を、住宅のプランニングと並行して進めました。

2.プランニング(設計)
設計事務所の仕事の中で「プランニング」は大きな幹にあたる部分です。事務所によって仕事の進め方などの違いは多少ありますが、建て主の要望をお聞きし、敷地を見に行き、法的な条件を整理して、プランニングを行います。
プランニングは構想段階から、基本設計、実施設計と続いていきますが、最初からパーフェクトな案ができることは稀です。むしろ、図面や模型などを使って何度もやり取りをしていく中で、本当に住みたい家のイメージがだんだんと見えてきて、それをさらに進化させていくことの方が多いですし、その方ができた時の建て主の方の満足感も高いように感じます。
設計中は、図面だけでなく模型やスケッチを通して建て主の方とイメージを共有しながら進めていきます。実際の生活や持ち物を見せていただき、家のことだけでなくいろんな話を通して、建て主の方のご要望を汲み取り、技術的なこと、性能的なこと、メンテナンス性、コスト面も踏まえてプランニングに反映させてきます。
満足のいく住まいづくりとなるためには、コミュニケーション、感覚の共有がとても大事になってきますので、話しやすく、相性の合う設計事務所・建築家を見つけることが大切になります。

建築家31会(ケンチクカサンイチカイ)は、自ら設計事務所を構える31組の建築家の集まりです。年齢や個性も様々で、ガレージハウスが得意な人、素材感を大切にする人、リフォームが得意な人、多世帯住宅を多く手がけている人、男女ペアの事務所など、それぞれ得意とするデザインやテイスト、事務所スタイルもバラエティに富んだ建築家のグループです。年に数回開催しているイベント等にお越しいただけると、自分の好みも見えてきて、相性のあう建築家も探しやすくなるのではないかと思います。

  

上の写真は『光と音と色の集積の家』というショップ・ギャラリー併用の二世帯住宅のプランニングの例です。A案(上段左)では親世帯は1階でしたが、B案(上段中)、C案(上段中)では、親世帯は3階となりました。現在はD案(下段)を進化させた案で工事が進んでいます。>>光と音と色の集積の家の設計・工事経過

3.住宅の見積チェック
住宅の設計図が完成すると工事会社(3社程度)に見積を依頼します。図面に対する質疑応答を経て、約3週間程度で50〜100ページぐらいの詳細な見積書が工事会社から出てきます。
初回見積は予算よりも2割から3割程オーバーして出てくる場合が一般的で、中には5割以上オーバーして出てくる場合もあります。
見積書は、おおまかには各項目の材料費(数量×単価)+人件費を積み重ねたものに工務店の経費を加えたものですが、まず、これら全ての項目に目を通して、見積落としや数量が多すぎる項目がないかを確認します。単価や経費は3社で比較し、過去の類似例とも見比べながら適正価格になっているかどうかチェックします。
この段階では予算内におさまらないことも多く、その場合建て主の方と相談しながら、材料や作り方、造作家具や設備機器の仕様などの見直しを行います。また、冷静に設計を見直すことで、過剰な設計になっているところを発見することもあります。それでも、ご予算をオーバーする場合には、後からできるものは工事から除いたり、家具工事を減らしたり、エアコンなどを支給品としたりして減額していきます。建主の方の了解を得ながら、形を単純化したり面積を縮小することも稀にあります。

右は各社の見積を工事項目ごとに比較した見積一覧表です。各社の高い工事項目、安い工事項目、総額に占める割合などをチェックできます。

 

上の写真は現在進行中のミカンの木の育つ二世帯住宅という玄関と水廻りを共用した二世帯住宅です。初回見積では、3社とも5割以上オーバーして出てきたため、部屋の大きさや家づくりの大切なテーマを維持しつつ、施工面積を少なくする目的で外形を変えることをご提案しました。今はなんとか実現できる工事費に近づいています。
>>ミカンの木の育つ二世帯住宅の設計・工事経過

4.住宅の工事監理
工事金額がまとまると、工事請負契約書、見積書、設計図などを元に建て主と施工会社の間で工事契約を結び工事が始まります。工事監理はこの工事が設計図通りに行われているか確認していくことです。配置の確認にはじまり、鉄筋の本数やコンクリートの品質、柱や梁の大きさ、耐力壁や金物の位置、サッシの位置やガラスの種類、仕上げ材の種類や施工状況などを、工事現場に行って図面と見比べながら目視や実測により確認するとともに、施工に立ち会えない場合は施工報告書などで確認します。間違っている場合は指摘して是正してもらいます。


 

上の写真は風と光と暮らす家の現場で、基礎や構造材を実測しているいるところ。
>>風と光と暮らす家の設計・工事経過

建築工事には非常に複雑な面があり、設計図面だけで工事を進めていくことは難しく、現場監督さんをはじめとして各業者の方と打合わせが必要です。工事中は現場に行かない時も、工事会社から出てくる施工図をチェックしたり、現場に指示する資料を作成したり、メールや電話などで頻繁にやり取りしています。

建て主の方とも要所で現場でもお打合せをし、窓の位置や照明スイッチの位置を確認してもらったりします。仕上げ材の最終的な色の決定も、サンプルや見本を用意して現場で行います。

また、見積もり調整で一旦中止したウッドデッキを復活させたいとか、ニッチを追加したいなど、工事中に出てくる要望に対して、後々問題にならないように、施工前に見積もり出してもらい、建て主の了承を得てから施工してもらうなども工事監理の重要な仕事のひとつです。


 

上の写真は室内化したテラスをもつ家の現場で、仕上げ材の色などを建主の方と最終的に決めているところ。
>>室内化したテラスをもつ家の設計・工事経過

5.竣工後(定期点検、メンテナンス、リフォーム)
建物を引き渡して終わりということはなく、ずっと関係は続いていきます。
実際に暮らしはじめると、とくに1年目には不具合が見つかったり、手直しが必要なところがでてきますが、工事会社と建て主の間に入って改善方法をアドバイスします。工事会社の定期点検にも立ち会います。

写真は猫と暮らす中庭のある家の工事会社の一年点検に立ち会った時のものです。
>>猫と暮らす中庭のある家の設計・工事経過

また、例えば子供たちが大きくなりそれぞれの個室が必要になった時には、(設計中にある程度想定しておきます)図面を作成し見積りをとり、完成までお手伝いします。

設計事務所・建築家との家づくりは、竣工後もその建物のことを一番よく知っている専門家(住宅の主治医)がいるということです。メンテナンスの時期や方法、また、大規模なリフォームを行おうとする時でも、安心して相談できる心強い味方になってくれるはずです。

最後になりましたが、設計事務所の仕事には
建物を建てる時に欠かすことのできない建築確認申請などの業務があります。
設計事務所は、家を新築する時に必要な建築確認完了検査の申請や立ち会いもなど建て主の委任のもとに行います。依頼があれば長期優良住宅やフラット35などの手続きも代行します。

写真は東京タワーと桜の見える家の確認申請がおりた時の写真です。>>東京タワーと桜の見える家の設計・工事経過

今週の”リレーブログ”設計事務所アーキプレイスの石井正博+近藤民子の担当でした。最後までお読みいただきありがとうございました。

設計事務所・建築家にできること 5 お引き渡し後(定期点検・メンテナンス・リフォーム)
設計事務所・建築家にできること 4 住宅の工事監理
設計事務所・建築家にできること 3 住宅の見積チェック
設計事務所・建築家にできること 2 住まいのプランニング(設計)
設計事務所・建築家にできること 1 土地探しのお手伝い

住宅の玄関ドアや玄関引き戸をオリジナルで作ってみよう
住宅の外壁材の種類と特徴、メリット・デメリット
テレワーク・在宅勤務がもたらす住宅の作り方や暮らし方の変化
機能的で快適な水廻り 洗面/脱衣/洗濯室をつくるポイント
住まいの収納を新築やリフォームを機に見直してみる

 

計事務所アーキプレイス HP
設計事務所アーキプレイス ブログ

archiplacejapan Instagram

You Tubeチャンネル archiplacejapan

お問い合わせ先:info@kenchikuka31.net
建築家31会事務局 東京都港区南青山2-2-15 WinAoyamaビル–UCF917
Tel : 03-6869-1961


>>建築家31会 HP
>>建築家31会 Facebook

著者情報

石井 正博 + 近藤 民子石井 正博 + 近藤 民子

石井 正博 + 近藤 民子 いしいまさひろ こんどうたみこ

設計事務所アーキプレイス

「敷地とライフスタイルを活かした家づくり」をテーマに、暮らしやすさ(温熱環境・家事動線・収納計画など)、デザイン、コストのバランスのとれた質の高い家づくりを建て主の方と一緒にめざします。

− 最新イベント情報 −

「江戸Styleの家」オープンハウスのお知らせ 2024 年11月30日(土) @小泉拓也+栗原守

「江戸Styleの家」オープンハウスを11月30日(土)に開催します。2005年7月に竣工した自邸兼モデルハウスです。約19年が経過していますので、無垢の木などの自然素材が時間の経過とともに美しく変化(経年美化)している様子を確認することもできます。自然素材の小振りな住まい、あたたかく気持ちのよい和モダンな住まいの雰囲気をご自身の目と心で体感してください。 *「江戸Styleの家」はエコの取り組みでグッドデザイン賞を受賞しました。 *2021年12月「渡辺篤史の建物探訪」、「突撃!隣...