原風景に想うこと1 @石川利治

今週のリレーブログを担当する石川利治です。今回は私が設計に取り掛かる際に必ず想いをめぐらす「原風景」に関して記してゆこうと思います。とりとめも無い話が続くかもしれませんが、一週間、おつき合い頂ければ幸いです。

早速ですが,この「原風景」という言葉は、特に建築専門用語という訳ではありません。いわゆる「風景」という単語よりは、もう少し個人の考え方や感じ方、場合によっては時の流れといったノスタルジーな部分を内包しているのではないかと思っております。空間によって何かしらの感情の機微を伴う現象があるのではないか・・・といったことをイメージし、今回のテーマとさせて頂きました。

仕事柄、都市的な営みには深く関係を持っていると思いますが、特に身の回りの街の歴史に興味を持ち始めたきっかけは、現在の場所(赤坂7丁目)に事務所を構えてからになります。国道246号線の向かいの赤坂御用地はかつての紀州徳川家の領地であったり、神宮外苑は近代では練兵場であったりと、生活圏内の事柄で古地図を開く機会も増えました。江戸時代から現在にかけて、あるものは昔と変わらず、あるものは大きな変化を遂げていたり、その歴史的な背景をひも解く事で、街の違った表情を想像する事が面白く感じられるようになりました。

赤坂近辺はかつての江戸城の外濠にあたり、現在も飯田橋付近から赤坂見附あたりまでは、お濠の様子を留めています。赤坂見附の先に続く溜池には、当時は巨大な貯水池があったということですが、埋め立てられた現在の街の様子からは全く想像がつきません。この外濠から城内に入る門は数カ所ありますが、そこには厳重な監視を行う「見附」が設けられていました。その名残は「赤坂見附」の駅名として現代に引き継がれています。現在、解体工事が進められている赤坂プリンスホテルの南東の角あたりには赤坂御門があったとされ、その石垣の一部が現存しています。明治初期の古写真で、赤坂御門は幅の広い土橋を登りきったところに威厳を持って構えられていた様子が伺えます。土橋は国道246号線となり、上空には首都高速が走り、門(高麗門)は跡形もなく消えてしまいましたが、緩やかに登る坂道と並行に走っていたお濠や石垣の一部は、当時の様子を偲ばせます。当然、街そのもの様子は変わっているのですが、こういった土木的な要素によって構成されたスケール感は今も存続していることが感じ取れます。現在では採掘するのも困難な巨石による石垣等の遺構は、様々な時代を通して刻みこまれた年輪とともにその圧倒的な存在感でそこにありづけるのでしょう。

※長崎大学附属図書館 幕末・明治期日本古写真メタデータ・データベース

 

AKASAKA_GOMON

AKASAKA_246

AKASAKA_MITSUKE

石川利治
3*D空間創考舎一級建築士事務所

1. 原風景に想うこと1:赤坂見附に見る江戸城の石垣
2. 原風景に想うこと2:富山の暴れ河と都市の成り立ち
3. 原風景に想うこと3:大津・膳所に残る街道筋の町屋型の区割
4. 原風景に想うこと4:原風景に挑む建築家のアプローチ
5. 原風景に想うこと5:二・二六事件が遺したもの

6. 原風景に想うこと6:山城巡り始めました 琵琶湖周辺の城址を歩く
7. 原風景に想うこと7:観音寺城を巡る1/2 南北朝時代からの山城を歩く
8. 原風景に想うこと8:観音寺城を巡る2/2 遺跡と化した山城を歩く
9. 原風景に想うこと9:小谷城を巡る 激戦と悲運の城を歩く
10. 原風景に想うこと10:安土城を巡る 焼失しても生き続ける象徴的空間構成の力強さ

著者情報

石川 利治石川 利治

石川 利治 いしかわ としはる

3*D空間創考舎一級建築士事務所

お客様にとって「快適で上質な空間」をお話をしながら、 きめ細かく建築に盛り込みます。コミュニケーションを大切にし、 技術力と感性の統合を行い、最適なご提案を致します。

− 最新イベント情報 −

オープンハウス(完成見学会)回遊動線のあるつくばの家 3/20(祝) @石井正博+近藤民子

この度、設計事務所アーキプレイスで設計監理しました『回遊動線のあるつくばの家』(木造2階建)が竣工間近となり、建て主様のご厚意によりオープンハウスを開催させていただくことになりました。 つくば市の新旧入り交じる住宅街に建つ、3人家族のための住宅です。 リモートワークが広まり家で過ごす時間が長くなる中、ご夫婦それぞれの仕事場でもある住まいには、より快適に暮らしていけるよう、ゴロンとできる和室、本棚のあるヌック、子供と遊べる南の庭などの場所をちりばめています。 オープンハウス(完成見学会)...