木造住宅の耐震補強の大切さと耐震補強リフォームの実例 @石井正博+近藤民子
今週の “リレーブログ” を担当します、設計事務所アーキプレイスの石井正博+近藤民子です。
私たちは男女ペアの視点を活かして、暮らし易さと(光と風、家事動線、収納など)とデザインのバランスのとれた豊かな住まいをめざし、「敷地とライフスタイルを活かした家づくり」をテーマとして設計活動をしています。
今回“リレーブログ”では、「木造住宅の耐震補強の大切さと耐震補強リフォームの実例」と題し、まず木造住宅の耐震補強の大切さと具体的に実現するまでの流れをお話しし、最後に設計事務所アーキプレイスでの耐震補強・耐震改修リフォーム事例をご紹介いたします。
■耐震補強がもたらすメリットを知ろう
○命や、大切な財産を守り、安心につながる。
○避難生活をせず自宅で過ごせる。
○被害にあったとしても被害範囲が少なく、その後の改修工事費が抑えられる。
■これまでの大地震による住宅の被害を知ろう
○壁量が不足している →特に大きな窓のある1階の南面が弱い
○接合部が弱い →2000年以前のものは接合金物が不足
○基礎が弱い →鉄筋が入ってなかったり、少ない
○土台や柱等の腐朽やシロアリ被害 →状態を確認することが必要
■木造住宅における耐震基準の変遷を知ろう
1981年(昭和56年)に木造住宅の耐震基準で大きな改正が行われ、それ以前と以降では耐震性能に大きな違いがあります。また、阪神・淡路大震災後(2000年)には新たな耐震基準が加わりました。
○「旧耐震基準」1981年(昭和56年)5月以前のもの
・耐力壁が少ない→地震力(水平力)に十分抵抗できない
・耐力壁の配置が偏っている→地震時に建物がねじれやすくなる
・軸組の接合部が弱い→耐力壁の本来の性能を発揮できない
・床、屋根が弱い→建物の一体性が損なわれ耐力壁の本来の性能が十分発揮できない
・基礎が無筋→基礎が地震力に抵抗できず倒壊しやすくなる
○「新耐震基準」1981年(昭和56年)6月以降のもの
・必要な耐力壁の量、耐力壁の倍率が見直され、耐震性が大きく向上しました。
○2000年(平成12年)6月以降
・筋交い金物、耐力壁両端の柱頭柱脚金物の具体的な仕様化、耐力壁の配置バランスを規定
下の表は、阪神・淡路大震災における旧耐震と新耐震の木造住宅の被害状況を比較したものです。旧耐震では軽微・無被害は全体の約1/3ですが、新耐震では約3/4が軽微・無被害であったことが分かり、被害状況に大きな差が生じています。
<平成7年 阪神・淡路大震災 建築時期による被害状況の比較/旧建設省資料より>
■耐震補強の3つのステップを知ろう
ステップ1「耐震診断」 →予備調査、現地調査、図面をもとに現状の耐震性能を評価する
ステップ2「補強設計」 →耐震診断結果を踏まえ、弱点の補強と建物全体で耐震性能を高めるための計画と設計を行う
ステップ3「耐震改修」 →補強設計にもとづき、耐震補強や補修工事を行う
■耐震補強にかかる費用や期間のおおまかな目安を知ろう(木造在来2階建て、図面有りの場合)
○「耐震診断」にかかる費用と期間の目安
・費用:5~20万円程度
・期間:現地調査半日程度、全てで1~4週間程度
※設計図面がない場合は、図面の復元が必要になるため費用と期間がもう少しかかります。
○「補強設計」にかかる費用と期間の目安
・費用:30~50万円程度
・期間:2~4週間
※設計図面がない場合は、図面の復元が必要になるため費用と期間がもう少しかかります。
○「耐震改修」にかかる費用と期間の目安
・費用:100~200万円程度
・期間:1~2ヶ月程度
※居ながら工事することが多いですが、できない場合は引越や仮住いの費用が必要になります。
■居住地(市区町村)の補助金制度を知ろう
○ほとんどの自治体では耐震補強にかかわる「耐震診断」「補強設計」「耐震改修」の名目で補助金制度を設けていますので、下記HPでご確認下さい。
>>「耐震支援ポータルサイト」 住宅・建築物の耐震化に関する支援制度 補助金制度の概要
■耐震補強は他のリフォームと同時に行おう
耐震補強は単独で行われることは少なく、他のリフォームと同時に行うことで費用を抑えて効率的に行うことができます
○耐震補強では、壁や屋根や床を補強するために内装を一旦壊しますので、塞ぎ仕上げる前に出来るリフォームを行いましょう。
→断熱リフォーム:断熱材を充填する。
→下地リフォーム:玄関や廊下や水廻りなど将来手摺を取付けられるように下地を入れる。
→内装リフォーム:補強部分のみ仕上が異なる状況を回避するため、内装を刷新する。
○外壁や屋根、設備の経年劣化も同時に直しましょう。
→屋根のリフォーム:屋根の葺替え、防水材(ルーフィング)の張り替え
→省エネリフォーム:断熱材の交換や強化、断熱性の高いサッシへの交換
→外壁のリフォーム:仕上げ材の吹き替えや張り替え、シーリングの打ち替え
→水廻りのリフォーム:メンテナンス性の良いシステムバスやバリアフリー化や広さの改善
○ライフステージや生活スタイルの変化合わせて、間取りを大きく替えることもおすすめです。
→間取りリフォーム:間取りの変更と同時に耐震壁の増設、バランスのよい配置の設計をすることで無駄のない効率的な耐震補強が行えます。
次に設計事務所アーキプレイスでの、木造住宅の耐震補強リフォームの事例を2つご紹介いたします。
耐震補強リフォームの事例-1 NGOリフォーム
基礎と壁の耐震補強とリフォーム(省エネ+バリアフリー+水廻り+内装)/2009年12月/費用700万(税別・設計料を含む)/調査・設計・工事期間約5ヶ月
築70年の古い民家の一部を耐震補強しながらリフォームした事例です。漠然と広すぎる昔ながらの居住スペースを、広さや動線を見直し、日常の生活空間(LDK、寝室、水廻り)を改修部分にコンパクトにまとめることで、機能的で快適な居住スペースとなるように計画しました。また、耐震補強を行ない、段差を解消し、断熱を強化して安全性と居住性を向上させています。室内が明るくなるように床と天井の仕上げを白くし、壁を明るい木の表情としました。壁にはシナ合板300×1800にカットしたものを千鳥に張り、横方向の広がりを感じられる柔らかい表情を与えています。寝室では既存の上がり天井部分に照明を入れ、半透明のプラダンを千鳥に木の押縁で止ることで、優しい光の空間をローコストで作っています。
<耐震リフォーム前後の平面図>
建て主の方とこれからの住まい方を一緒に考え、民家の全体を耐震改修するのではなく、日常生活に必要な部分に絞って耐震改修リフォームを行いました。
>>築70年の古民家の改修 小さく住むこと NGOリフォーム
<耐震リフォームの写真:LDKから寝室を見る>
元の客間は床段差を解消して水回りに段差なくいける寝室に。天井裏に照明を入れた天井照明は、元の折り上げ天井の形を利用して生まれたものです。
>>プラダン(プラスチックダンボール)を天井に使ったNGOリフォーム
<リフォーム後の写真:リビングからダイニングキッチン側を見る>
耐震補強リフォームの事例-2 Valley(バレー)SU邸
基礎と壁の耐震補強とリフォーム(用途変更+省エネ+内外装+水廻り増設)/2004年5月/費用1050万(税別・設計料を含む)/調査・設計・工事期間約7ヶ月
築50年の木造住宅の店舗部分を耐震補強し、新しい生活の場にリノベーションした事例です。既存の天井を解体して、屋根裏の小屋組を室内に表した傾斜天井の大きな空間を確保。その東西にロフト、浴室洗面、倉庫を設けて、その間にできる谷(Valley)のような場所をLDKにしました。採光面となる北側は半透明の壁として、道路からのプライバシーを守りながら部屋全体にやわらかな光を取り入れています。南側の壁(壁面収納)と天井は、光を反射して小屋梁が引き立つ白で仕上げ、東西の壁と床は針葉樹合板の木目を活かしたラフな仕上げとして対比させています。
<耐震リフォーム前後の平面図>
天井を剥がして生まれた天井裏のスペースを利用して、ロフトを二ヶ所新設。元のままでは新しい生活には不足していた床面積を増やしました。
<耐震補強工事では基礎の補強から行いました>
耐震補強として、基礎がなかった部分は、既存の土間コンクリートを一部撤去して鉄筋コンクリートの布基礎を新設。簡易な基礎があった部分は、鉄筋コンクリートの新設基礎と差し筋で一体化させて基礎を補強。耐震壁は補強した基礎の上にバランスを考えて設けて設置。東西にロフトを作ることで桁レベルの水平構面を固めています。
<耐震リフォーム後の写真:LDK>
左は母屋(親世帯)との間の防音も兼ねた収納壁。右はバス停のある道路からのプライバシーを守りつつ、北側の柔らかい光を取り込む透光壁で断熱性も備えています。
<耐震リフォーム後の写真:外観>
透光壁からのほんやりとした光が漏れ出ています。左の壁は、水回りの窓やエアコン屋外機、ガス給湯器を隠しています。
古くなった木造住宅にそのまま住み続けるべきか、壊して建て替えるべきか、様々な事情から誰しも悩むところだと思います。耐震補強は適切なリフォーム・リノベショーンと組み合わせて行うことで「地震による被害の心配をなくす」と同時に「快適な生活を送れる場所を得る」ことができます。建築家31会には「リフォームの匠」を初めとして、様々な耐震補強・耐震改修リフォームの経験と知識を備えた建築家(一級建築士)がいます。親身になって相談に乗ってくれますので、悩んでおられる方はぜひ一度ご相談ください。
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