住まいの採光と通風(住宅の日当りと風通し) @石井正博+近藤民子

今週の“リレーブログ”を担当する石井正博+近藤民子設計事務所アーキプレイス)です。男女それぞれの視点を活かして、暮らしやすさ(採光と通風、家事動線、収納など)とデザインのバランスのとれた家づくりを目ざし、「敷地とライフスタイルを活かした家づくり」をテーマとして設計活動をしています。

今回の “リレーブログ” では、住まいにとって大切な「採光と通風(住宅の日当りと風通し)」について書いていきます。

1.夏の陽射しと冬の陽射し

自然の光を住まいに有効に活かすには、夏と冬の陽射しの違いを理解して、夏の陽射しは遮り、冬の陽射しは取込むことが大切です。夏の正午の太陽高度は78度と高く、真上から光が射してくる感じですが、冬は32度とぐっと低くなります。そのため、南側に主開口を設け、その上に庇や屋根を設けることができれば、強すぎる夏の直射光は遮ることができ、室内に暖かさをもたらしてくれる冬の陽射しは室内奥深くまで取込むことができます。
狭小地の場合など、庇や屋根をもうけることができないこともあります。その場合は、窓の大きさを絞ったり、外側の格子で光を和らげたり、明るさを確保しながら熱の元となる光を入れない工夫を施します。ガラスには熱線を半分程度に軽減できる遮熱タイプのLow-Eガラスを使います。

また、南面以上に気をつけたいのは、夏の西日対策です。横から光が射してくる西日は、庇や屋根では防ぎきれないため、西日のあたる窓は必要以上に大きくしないことが大切です。大きい窓を設ける場合は、外側に袖壁や格子を設けるなど直射光をなるべく遮ります。ガラスには遮熱タイプのLow-Eガラスを使います。
西日を遮るように落葉樹を植えることができれば、夏の陽射しは遮り、冬の陽射しは取込むことができるので、内部環境にはとても有効です。

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写真は、南側に向けて大きく開き、外側に外部空間(デッキテラスとテラス)を設け、その上に大屋根をかけた住まいです。大屋根が真夏の強すぎる陽射しやを遮り、内部の環境を守ります。西側に設けた和室や袖壁は、西日を遮る役目も果たしています。

>>白山の家

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敷地の南西側に設けたコート(庭)をL字型に建物で囲ったコートハウスです。1.2m張り出した2階のベランダが南の陽射しを遮ります。また、正面のリビングの窓は南西側に開いていますが、緑豊かなシンボルツリー(アオダモ)が陽射しを遮ってくれます。

>>蕨市のコートハウス  >>同 ブログ

 

2.北側の光と天空の光

住まいに明るさをもたらす自然光を取込む場所は、南側からだけではありません。北側からの光は、南側の直接的で活き活きとした光に比べて、目に優しく、明るさの変化も少ない柔らかな光です。この柔らかな北側の光を住まいに上手に取り入れると、住まいに落ち着きのある場所が生まれます。また、北側の窓を通して見る景色(空や植栽)は、南側の窓よりも、太陽の光を受けて美しく鮮やかに見えます。

天空の光は、トップライトを通して上手く取込めば、ダイナミックな光から柔らかな光まで、住まいに様々な光として活かすことができる魅力的な光です。時間の変化や季節の変化をダイレクトに感じさせてくれる光でもあります。ただ、夏の直接光を受ける大きなトップライトを設けてしまうと、光とともに入ってくる熱によって室内が熱くなりすぎるため、その対策は欠かせません。

採光計算上、屋根面に設けるトップライトは同じ面積であれば、垂直面の窓に比べて約3倍の明るさがあるとされていますので、窓からの採光では十分な明るさが取れない部屋には有効です。

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写真は、木立に向けて設けた北側の窓です。書斎コーナーの天井いっぱいに設けた木製窓から入る光がデスクを柔らかく照らします。窓の外には、季節によって鮮やかな緑や雪景色が広がります。

>>木立に佇む家  >>同 ブログ

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Photo:安川千秋

写真は、建物中央に3層吹抜の「光井戸」を設けて、上部のトップライト(4.4m×1.7m)からの光で満たし、各部屋を「光井戸」に向けて開いた住まいです。熱対策として、当時(2003)は住宅ではまだ珍しかったLow-Eペアガラスを使い、水平に可動するロールスクリーンを設けています。上部に溜まった熱は、夏には温度センサー付きの換気扇で排出し、冬には送風ダクトを通して1階の土間を温めます。

>>ひかりの家

3.ハイサイドライトでの通風と採光(日当りと風通し)

住まいの採光・通風を行なう上で、好みの大きさの窓を好きな位置に設けたいところですが、気になることとして、外部の視線からのプライバシーの確保と防犯対策があります。そんな時に検討してみたいのがハイサイドライト(高窓)です。ハイサイドライトによる採光の場合、低い位置の同じ大きさの窓よりも室内の奥深くまで光が入るため、室内はより明るくなります。また、外部からの視線が入りにくくなるためプライバシーを守りやすく、防犯面でも、地面からの位置が高くなるので有利です。さらに、視線は斜め方向に空へと抜けていくので、室内に開放感をもたらします。

通風においてもハイサイドライトは有効です。壁面に収納を造付けたり家具やテレビを設置しても、その上部で通風させることができます。また、暖まった空気は上昇し上に溜まっていくため、ハイサイドライトを開けて暖まった空気を排出させることで、低い位置の窓から新鮮な空気を呼び込むことができます。

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Photo:安川千秋

写真は、中廊下の上部に採光と通風(換気)を兼ねて設けたハイサイドライト(高窓)です。どこからも中を覗かれる心配のない場所ので、窓にはブラインドを設けていません。青空がキレイに見えるように窓廻りをすっきりさせ、光によって色が変化するガラスのペンダントライトを吊るしています。

>>東京タワーと桜の見える家  >>同 ブログ

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写真は、天井が少し高くなったリビングの天井段差部分に設けたハイサイドライト(高窓)です。北側の柔らかな光を取り入れるとともに、暖まった空気を外に排出する通風(換気)窓の機能も果たします。このような手の届かない高窓の開閉は、チェーンオペレータや電動ユニット+リモコンで開閉させます。

>>阿佐ヶ谷の家  >>同 ブログ

 

4.風の流れをイメージした平面計画

その土地において最も頻繁に吹いてくる向きの風を、卓越風(たくえつふう)と言います。卓越風は季節の移り変わりに応じて変化してきますが、東京近郊では一般的には夏は「南〜南南東」、冬は「北〜北北西」です。(詳しいデータ:自立循環型住宅のHP「気象データ」

この卓越風を頭に入れて、夏の風を取り入れやすいように建物の形状や敷地の中での配置を決めます。部屋は風が流れていきやすいように、風の入口と出口を意識して窓を計画します。部屋には2つ以上窓を対角に離して設けるのが理想です。できれば部屋はあまり小割りにせず、開けっぱなしにできる引き戸や欄間を使うなどして、家全体で風が流れるように計画します。
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上の図は、密集地に計画した3階建て住宅の2階平面図です。バルコニーやシンボルツリーを植えた坪庭的な外部空間を建物に組込むことで、風を内部に取り込み、出口となる側にも窓を設けています。

>>外部空間を組込み計画した事例『宙を囲む家』『千駄木の家

 

5.断面を活用した採光と通風(日当りと風通し)

住まいの「採光と通風」では、平面だけでなく断面を組み合わせて考えることが大切です。特に狭小地や密集地の住まいにおいて、隣地側に単純に窓を設けるだけでは、快適な内部環境を実現することは困難です。階を繋ぐ吹抜けや、床に段差を設けたスキップフロアの構成を計画に取り入れる方法があります。周囲の環境を含めて、住宅という一つのボリュームを、より立体的に捉えることで快適な内部空間を実現できます。
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上の図は、北側道路の南北に長い敷地で、3方を囲まれた住宅です。南側にデッキテラスを設けて、南側隣地建物の屋根越しの光をLDKに取込むとともに、リビングとダイニングの間に設けた吹抜けを通して、建物中央上部からも採光しています。
風はデッキテラス側だけでなく吹抜け上部の窓からも入ってきて、吹抜けで繋がった空間を通り、北側へと流れていきます。

>>スキップする家

住まいの採光と通風(住宅の日当りと風通し) その4
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著者情報

石井 正博 + 近藤 民子石井 正博 + 近藤 民子

石井 正博 + 近藤 民子 いしいまさひろ こんどうたみこ

設計事務所アーキプレイス

「敷地とライフスタイルを活かした家づくり」をテーマに、暮らしやすさ(温熱環境・家事動線・収納計画など)、デザイン、コストのバランスのとれた質の高い家づくりを建て主の方と一緒にめざします。

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