「間取りの模範解答」週末はプール付きの平屋で　パーティーなんてどうでしょう？＠石川 利治

建築家31会の新刊『間取りの模範解答』P72〜P73 に
石川利治の設計した二拠点生活の間取りが掲載されています。

誌面では伝えきれなかった内容や完成写真などを加えて、解説致します。

「地に根ざした平屋に住みたい」

お施主様から最初に家づくりのお話を頂いた時に、とりわけ印象に残っているテーマです。全ての計画は、このお題からスタートしました。
地に根ざすということは、その家の敷地だけの話ではなく、その地域の気候、風土、暮らし方なども含め、その土地柄を掘り下げる事が必要と考えました。

なだらかに広がる農耕地に点在する屋敷林の景色は、日本古来の田園風景の名残を感じさせます。その平野の中にあり、遠く日光の連山を望む事のできる今回の敷地は、野生の竹林の一部が残る南北に細長い形状をしていました。敷地南側は前面道路に面しており、車の往来も少なくはない様子で、開放的な周辺環境を生かしながら、いかにプライベートな空間を生み出すかが、計画の主要な命題と捉えました。

今回の計画に際して具体的に３つのリクエストを頂きました。

・木造の平屋建てとする事
・広がりのある大きなリビング＋ダイニングをつくる事
・プライベートプールを設ける事

これらの要件から、母屋を南側に配置し、開放的な前面道路から緩やかに縁を切ったプライベート性の高い外部空間を北側に生みだし、そこにプールを設ける事をご提案しました。プールは地面を掘り、水面と地表面をできだけ連続させ、庭との一体感を生むように心がけました。ここで掘り起こされた土は、敷地の南と西に敷き並べて、なだらかなマウンドをつくり、芝で覆われた斜面とします。既存の竹林とこのグランドワークによって生み出された外部空間は、敷地そのものが持っていた、隣地と平坦に繋がってゆく、ある意味での心もとなさを和らげ、よりプライバシーの高い領域を生み出します。母屋はこの起伏の上に、シンプルな幾何学形状の屋根が浮いているといった、グランドワークとの一体感を意識し計画を行いました。広大な平野に拠り所を設けながら低く抑えた平屋の屋根で覆う、地に根ざしすための解答を具現化しました。

ま

間取りでは見えてこない断面計画について少しご説明いたします。

北側のプールサイドに設けた木製デッキは室内の床レベルと高さを揃えています。窓を開放すれば段差無く繋がり、大きく張り出した軒と併せて、広く内部と外部が一体となった空間が生まれます。室内からは、その開放的な開口部により、外部的な内部空間を意識させ、デッキ上では、室内から連続する低く抑えたれた軒下により、内部的な外部空間を意識させます。この内部空間と外部空間のあいまいな領域が建物と周辺環境との一体感を生み出す事に大きく作用しています。

リビング + ダイニングは ８m×６mの、柱のない一室としました。内部空間に木の表情を取り入れたいというご要望もあり、屋根の構造部材も仕上げとして室内に現しています。南北に長い敷地形状を最大限に活かすように構造部材も短尺状のフレームを南北に並べ、方向感を生み出すと共に奥行きを感じさせる効果を期待しています。中央の木製トラスは鋼製ロッドを利用したテンション材を組み合わせたハイブリット構造とし、部材の太さにメリハリを持たせています。連続する三角形のトラスは、2x 4(38mm×89 mm)サイズの木材にボルトの座彫りをあらかじめ工場で加工し、ジョイント部の鉄板を二本の部材で挟む構成としています。限界設計による細い部材はシンプルな部品構成とあいまって、可搬性に優れたシステムとなり、人力での建て方を可能にしています。三角形トラス上部にはトップライトを配し室内の明るさ、通風の確保と共に、構造部材に陰影を与え、空間を引き締める効果も期待しています。細やかな部材により構成される、構造システムは、大きな空間に繊細さを与え、ヒューマンスケールを獲得する事にも一役かっています。