住まいに広がり(開放感)を生み出す方法 @石井正博+近藤民子
今週の “リレーブログ” を担当する石井正博+近藤民子(設計事務所アーキプレイス)です。
男女ペアの視点を活かして暮らし易さ(光と風、家事動線、収納など)とデザインのバランスのとれた家づくりを目ざし、「敷地とライフスタイルを活かした家づくり」をテーマとして設計活動をしています。
今回の “リレーブログ” では「住まいに広がり(開放感)を生み出す方法」について、書いていきます。
住まいの計画では、広がり(開放感)を求められる事が多くなっています。土地が狭い、建てられる面積が限られる、狭い部屋で今まで窮屈に暮らしてきたなど、これから建てる新しい住まいに広がり(開放感)を求める理由は様々です。
広がり(開放感)のある空間には、気持ちを開放的にしてくれる面や、日々の暮らしに癒や心の余裕を与えてくれる面があり、それによって生まれる「居心地のよさ」が、今の住まいにはより強く求められているのではないでしょうか。
また、広がり(開放感)は、床面積で単純に測れるものでもありません。天井高さを含めた立体的な広さ(容積)、部屋と部屋(内部と外部)の繋がり方、窓と壁の配置やバランス、視線の抜け具合やその焦点、光の取り入れ方になどによっても、影響される「空間の奥行き感」のようなものだと思います。
設計の工夫によって生まれる「空間の奥行き感」について、事例を交えながらご紹介していきます。これからの家づくりのヒントに少しでもなれば幸いです。
1.デッキテラス(内部と外部の一体感を活かす)
三方を建物で囲われた中庭に、室内のフローリングに近い色合いの木製のデッキを段差なく張って、デッキテラスと室内の一体感を強めています。一部が吹抜となったLDKは、中庭に対して大きく開口を設け、光を奥深くまで呼び込むとともに、青空へと視線が抜けて行く断面構成になっています。デッキテラスではお茶を飲んだり室内と一体的な使用ができると同時に、室内の延長としての広さ(広がり)をこの住まいに与えています。
>>『猫と暮らす中庭のある家』
もう一つの事例は、2階にあるLDKの外に張り出す形で、デッキテラスを設けたものです。デッキテラスの外側には壁を回し、外部からの視線はシャットアウト、内部に安心感を与えています。フルオープンのサッシを開ければ内部と外部が連続し、日が暮れてからでも、カーテンなどを閉じる必要もなく、室内外の一体的な広がりを楽しむ事ができます。
>>『阿佐ヶ谷の家』
2.吹き抜け
吹き抜けは住まいに広がり(開放感)を生み出す方法の代表的なものです。頭の上が押えられた感覚が弱まるので、室内から空の下へ飛び出したような開放感があり気持ちの良いものです。
photo:Yusukawa Chiaki
写真は「仲のいい家族の一体感や繋がりを大切にしたい」という希望から、LDKのリビング部分を吹き抜けとし、その吹き抜けに面して2つの子供室を左右対象に配置した住まいです。吹き抜けとの間の手すりは、落下防止機能を持ちながらできるだけ視線を遮らない、透明の手すりにしています。また、子供室を独立させることもできるように、6枚の障子状建具を壁に隠して設けています。この住まいは7年前に完成したものですが、最後に、建て主の方から最近届いた便りを紹介しておきます。
>>『家族が楽しい家』
3.断面の工夫
条件が厳しい敷地でも、断面を工夫することで、床面積では測ることができない広がりを生み出すことができます。
図は、3階建て住宅の断面構成で、2階に設けたリビングと、3階のオープンスペースがズレをともなった斜めの関係で繋がり、南側の高窓(ハイサイドライト)や北側の天窓(トップライト)から採光する考え方を現わしています。
photo:Yusukawa Chiaki
この住宅は、近隣との関係から水平方向よりも斜め方向の広がりを重視しています。テレビカウンターに向かってソファの置かれるリビング(手前)と、3階の家族みんなが使うデスク付きのオープンスペース(右上)が、斜めの関係で向かい合うことで、適度な距離感を保ちながら、各人がそれぞれの作業に集中することもできる空間を意図しています。外部に中庭やデッキテラスを設けることができない、視線の抜ける方向がない、床面積が限られる等の場合でも、断面を工夫する事によって、奥行き感のある広がりを生み出すことができます。
>>『神楽坂の家』
4.空間を広げる出窓
建ぺい率がキツイ敷地では、床面積にカウントされる実質上の床を広げることはできません。しかし、床面積にカウントされない出窓をうまく使うことで、プラスアルファの広がりを生み出すことができます。
写真は、狭小地(21坪)に建ぺい率いっぱいに建てた住宅。個室のある3階に、長さ6.7mに渡り出窓を設けたものです。人の目線のレベルの空間の幅が広がることで、床面積は変わらないのに部屋が広くなった印象になります。また、奥行き35cmの出窓のカウンターや黒いアルミサッシも、仕切りなく連続したように見せることで、水平方向の広がりがより強調されています。
>>ひかりを組み込む家
5.鏡の効果を利用する
西欧には、ヴェルサイユ宮殿・鏡の間に代表されるように、鏡の映り込みや虚像の効果を、建築に上手く取り入れてきた歴史が長くあり、住まいにも鏡を効果的に使った事例が日本よりも圧倒的に多いように思います。この鏡の効果をうまく使うと、想像以上の広がりが空間に生まれます。
同じ住宅の個室。クローゼットの引き戸に姿見用の鏡を貼っています。建具全面に貼り、ディテールをスッキリさせることで、手前の部屋が鏡に映り込み、奥の方にも明るい部屋が広がっているような錯覚が生まれています。
同じ住宅のリビング。写真正面のガラスの竪格子の上部には、構造上どうしても必要な梁があります。その梁の存在を消し、高窓(ハイサイドライト)が奥の方まで連続して見えるように、鏡の効果を利用したものです。こうした鏡の効果は”魔力的”で、それに頼りすぎるのは良くないですが、うまく使うと想像以上の広がりを空間に与えることができます。
6.スキップフロア
スキップフロアの断面構成では、一つの階が独立するのではなく、床が半階づつずれて階段で結ばれることで、数層に分かれた空間が連なっていくような空間が生まれます。
模型は18坪弱の狭小地の3階建ての住宅です。道路レベルから屋上テラスのレベルまで、6層の床で構成される空間が半層ずつずれながら重なっています。それぞれの空間は広くなくとも、6つの場所が折り畳まれて連なっていくことで、床面積では現わせない広がりが生み出されます。 >>十字路に建つスキップハウス
写真は、三方を囲まれ、北側道路に面して建つスキップフロアの住宅です。
左の写真は、デッキテラスからLDKを見たもので、正面に見えるのがキッチンです。左側の少し高くなった場所に家族で使うワークスペースがあり、そこを通ってさらに上に行くと子供室があります。
右の写真は、子供室前から見たもので、下にはワークスペースやリビング・デッキテラスが見え、上に目を移すと半層上にある屋上テラスが窓の外に見えます。
>>スキップする家
7.建具で繋げる
部屋の出入りや仕切りに使う、開き戸や引き戸などの建具を上手く使うことで、部屋と部屋を必要に応じて繋いだり仕切ったりと、可変性を備えた広がりのある空間をつくることができます。
写真は、寝室とリビングの吹抜との間の仕切りに6枚引き戸を使ったものです。左側のクローゼット収納の奥行きと同じ幅の6枚の引き戸が引込まれると、シナ合板の天井に反射した柔らかな光が寝室まで広がり、遠くの木立まで視線が伸びていきます。
>>木立に佇む家
8.回遊性のある動線
住まい(住宅)を、空間の中を移動する人の動きに注目して観察してみると、リビングのソファスペースのような人が止まるところ「溜まり」と、その周りに生じる人が歩いて移動する通路「動線」で出来ていることが分かります。「溜まり」と「動線」をバランスよく計画すると、スペースの無駄がなくなり、移動もスムーズになります。
回遊性のある動線とは、この人の「動線」に行き止まりを作らず、または2つ以上の「動線」で空間を繋げていくことで、行き止まりを回避しながら閉塞感をなくし、心理的な広さ(広がり)を生み出そうとするものです。
上の3つの写真は、中央に階段を設けた3階建て住宅の2階部分です。手前のリビング側と奥のダイニング側の間に2本の動線を計画[上写真]。また、リビングとダイニングは外部に設けたデッキテラスを通っても行き来でき[下左写真]、さらに、キッチンに隣接する家事スペースでも結ばれ[下右写真]、合計4つの動線で回遊性を持たせて繋いでいます。
>>カフェのある家
写真は、現在設計中の木造2階建て住宅の、リビングの吹き抜けを見下ろす模型写真です。
リビングの吹き抜けの廻りを、ワークスペースや個室、外部のベランダやバルコニーを通ってぐるりと一周できる動線(”くるり”と呼んでいます)を設けたものです。これから大きくなっていく子供達が駆け回り、想像力を育めるような活き活きした住まいになればと思っています。
>>くるりのある家
「住まいに広がり(開放感)を生み出す方法」について書いてきましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。石井正博+近藤民子(設計事務所アーキプレイス)
住まいに広がり(開放感)を生み出す方法 その5
住まいに広がり(開放感)を生み出す方法 その4
住まいに広がり(開放感)を生み出す方法 その3
住まいに広がり(開放感)を生み出す方法 その2
住まいに広がり(開放感)を生み出す方法 その1
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