地下RC造建物の地中外壁防水止水と内部湧水集水排水対策
東京にある設計事務所「古橋建築事務所」様が設計・監理をされた「昭和女子大学キャンパス内『西体育館』(屋内プールと体育館)」の意匠設計と工事監理を協力・担当をさせていただきました。
13年前に建てられた屋内プールと体育館の施設が、大学の新方針によって建て替えられることになりました。敷地内により多くの学生さんを受け入れるが授業を教室を設けるためです。
敷地の制約から屋内プールと体育館は上下に配置されることになり、地下に屋内プール、地上に体育館が配置されることになりました。
建物計画地に地下水が流れている
建設工事が行われる前に、建設場所の地下水の有無とその深さについては、ボーリング地質調査の結果から地上面から深さ3メートル弱の深さにあることがわかりました。
建物自体は地下2階建てで、地表面から下方に約11メートルの深さ建物です。
地下水の水位は、建物の地下1階部分に位置します。
地下水がある場合、地下水はその高さ位置だけでなく、地下建物の上下全体に広がるように建物に浸るようになります。
地下建物は完成後に改修や修理を行う事は甚だ困難なので、最初の工事の段階で地下水の侵入を防ぐ防水対策を講じなければなりません。
地下の構造体は完成後に変更を加える事は困難なので、はじめの工事で地下水の侵入を防止する対策を造っておかなければなりません。
地下水の侵入対策は、
- 外壁面での防水
- 侵入した地下水の排水
と言う、2つの局面での対応が必要です。
土留め擁壁SMWで止める
地下RC造建物は、土を掘ってそこに建物を造ります。造った建物が固いために周囲からの土の圧力に押し潰されないようにしています。
地下RC造建物を造っている最中は、周囲の土の圧力を留めておかなければなりません。
造る建物の深さが浅い場合は、「親杭横矢板工法」によって周囲の土を止めておけます。しかし今回のように地下11メートルの深さの場合は、土留め擁壁が必要になります。
→関連記事「大学施設の地下室内プール建設工事の地下外壁地中土留め連続擁壁SMW」
今回の工事では、地下の土留め擁壁はSMW地中連続擁壁工法が採用されました。SMW地中連続擁壁工法は、コンクリートの厚い壁が土中を巡りますが、しかし完全な止水は期待出来ません。(多少の止水性能を期待します)
実際の掘削工事ではSMWの設置後、掘削が進められて、掘削が完了した際、SMW擁壁からの出水は見られなかったために、擁壁で多少でも止水を行なってもらえるよう期待を寄せました。
地下外壁防水で止める
敷地の広さに余裕があって、地下建物の外壁の周囲に作業が行える場所の余裕を持って土留めの擁壁が設けられる場合は、地下構造体と擁壁の間で作業が出来て、地下構造体の外壁面に防水工事が施工できます。
地下構造体が完成して、地下構造体の外壁面に施工する防水工事を「後やり工法」と呼んでいます。
「後やり工法」とは構造体が組み上がった後に行う方法で、その逆の「先やり工法」もあります。これは土留め擁壁面に初めて初めに防水材を施し、その面を構造体の外側型枠にして構造体を後から造る工法です。
今回の敷地には広さの余裕が無く、地下構造体の外壁面と土留め擁壁の間に作業空間は設けられませんでしたため、また、先のSMW擁壁による止水効果が認められたため、地下外壁面の防水は行わないこととし、内部の壁面に防水を行うことになりました。
外壁で止める
地下建物の周囲外壁のどこかに隙間や穴があるために、地下水が内部に侵入して来てしまいます。
地下周囲外壁のコンクリートを密実に打設することは、後の防水を施す施さないに関係なく重要です。
地下の外周構造体は土圧を受ける部材のために厚くなることが多く、大量のコンクリートを流し込んで造るられるのと、外壁面側のコンクリート面はコンクリート打設後に目視で施工状況の確認ができないために、コールドジョイントやジャンカ(構造的欠損)を造らないように注意が必要です。
コンクリートの打継ぎ部を止水板で止める
鉄筋コンクリート造は原則、階毎にコンクリートを打設して造られていきます。すなわち下階と上階のコンクリートを打設する日時には隔たりがあり、上階のコンクリートを打設する時には下階のコンクリートはしっかり固まって強度を出していなければなりません。
つまり、下階と上階のコンクリートは厳密に言うと一体になってはいません。
その境目を「打ち継ぎ」部分と呼んでいて、その部分は地下水を考慮すると目視できない「隙間」があります。
この隙間から地下水が侵入してくる可能性が高く、地下外周の地下水は下方に落下することなくに地下外壁面にかかるようになり、そこに打ち継ぎ部の隙間があれば、地下水が滲み入るように侵入してきます。
コンクリート打設時の打ち継ぎ部に施す止水は、下階のコンクリート打設時に 地下外周壁の上端部に途切れ無く上階に突き出るように止水板を設置します。上階のコンクリート打設時に止水板は上階のコンクリートに突き刺ささり、下階と上階を繋ぎ打継ぎ部の隙間に立ちはだかる格好になって、地下外周から侵入して来る地下水を止める役割になります。
内側壁面に防水を施工して止める
地下外周壁の外側壁面に防水施工ができないので、外周壁の内側に防水を施すことになりました。
壁面は垂直なので、内部壁面に密着して多少の伸縮性を有する塗布防水が施行されました。
地下侵入水を室内に入れない
建物が完成した際には確認できなかった地下の侵入水は、将来、外周壁面のどこかから侵入するかもしれません。
地下水が侵入してきた場合は、侵入水(=湧水(ゆうすい)と呼びます)が、地下室内側に入らないように もしくは 湿気を出さないように、周囲外壁の内側に設けた二重壁内を伝わせて落下させ、最下部のピットに落とします。
地下侵入水を最下部ピット集めてポンプで汲み上げる
地下外周壁のどこかからか侵入した湧水は、外周壁内側の二重壁内を伝わせて、最下階の床、さらに床に排水穴を開けた最下部の「ピット」に導きます。
ピットに落ちた湧水はさらに一番深い排水釜場に集められ、そこに設置された排水ポンプで地上に汲み上げられて排水されます。
上記のような多重に設置した防水機能や排水設備によって、地下空間が地下侵入水があっても良好な地下室環境を維持できる仕組みを設えています。
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